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探偵・隆 濡れた調査簿

作者・西森元

(1)幼き依頼人
 控えめなノックの音がした。
 隆がワープロのモニターから目を上げると、ドアの磨りガラスの向
こうに小さな人影が見える。
 「どうぞ」と声をかけると、娘が一人そっと入ってきた。
 セーラー服の女子高校生である。
 「スペース企画なら三階だよ」
 隆は同じビルに入っている芸能プロダクションの名前を言うと、再
びモニターに目を落とし報告書を作り始めた。
 おおかたスカウトに声をかけられたうぶな高校生だろうと思ったの
だ。
 とても探偵事務所にやってくる人種には見えなかった。特にこの堂
上調査事務所のように、机一つ電話一つの金融業や風俗専門芸能プロ
などと雑居しているようなところへは。
 「私、今朝ほどお電話した藤村でございますが」
 しっとりと落ち着いた声がそう言った。
 隆は顔を上げ、まじまじと娘を見つめると、あわてて答えた。
 「これは失敬、もっと年配の方がみえるかと思っていた。所長の堂
上です」
 「私、仕事柄、大人びて見られますの」
 娘はそう言って笑った。もっとも、所長と名乗った隆もまだ三十に
なったばかりである。当然、所長兼所員の一人所帯だ。ここは法律事
務所などから調査物件を下請けする泡沫探偵社なのだ。
 藤村みゆき、十八歳。これが今回の依頼人だ。今朝、某法律事務所
からの紹介で電話があった。
 信者三万人を擁する新興宗教「日本の光教団」教祖の一人娘である。
 ありふれたセーラー服に身を包んでいても、清楚な顔立ちがある種
のオーラを放っているようだ。
 落ち着いた話し方といい、大人びた笑顔といい、そこらの小娘に作
れるものではなかった。年月をかけたお嬢様教育のたまものが、目の
前に立っているのだ。
 無意識にもゆきを観察していた。身長は百六十センチぐらい、ほっ
そりとした体は、まだ少女の雰囲気を残している。
 高篠視線に気づいたのか、みゆきは頬を染めると「本題に入りまし
ょう」と言って、一枚の手紙を出した。
 教団の便箋にワープロで打ち上げたものだ。

 ”継承の儀をやめろ、強行すれば不幸になる”

 脅迫状であった。
 郵送されてきたのだという。
 「この継承の儀というのは何です」
 「実は、母が、いえ今の教主なんですけど、体をこわしていまして、
私が卒業と同時に後を継ぎますの。その儀式ですわ」
 「おそらく内部の人間だろう。本来は警察の仕事だ」
 脅迫状を返すと隆は言った。
 「表沙汰にしたくないんです。信者さんたちに迷惑がかかりますも
の」
 みゆきはきっぱりと言った。きつく結んだ唇がいじらしい。
 支払いは前金だった。女子高生には似つかわしくない大金だったが、
みゆきの場合、不思議と違和感がなかった。もっとも隆が犯人探しを
引き受けることにしたのは、そのせいばかりではなかった。みゆきの
いじらしさに負けたのかもしれない。
 「警備の指導も兼ねて、明日、教団に出かけましょう」
 「よろしくお願いします。母一人子一人で相談できる人もなかなか
いませんの」
 そう言って頭を下げた拍子に、セーラー服の胸元から意外に豊かな
ふくらみが覗いた。
 隆はあわてて目をそらした。
 (まだ二十歳前の小娘じゃないか)
 自分にそう言い聞かせるが、どうやらこの娘に惹かれているらしい。
 娘が去ると、事務所は急に暗さを増したようだ。
 太陽はすでに隣のビルに沈んでいる。地上げで回りにビルが増えた
ため、三階にあっても、この事務所は地上より夜が早いのだ。
 窓から見下ろすと、路上に待っていた黒いリムジンにみゆきが乗り
込むところだった。
 制服の運転手が恭しくドアを開けている。シートに腰を降ろそうと
して少しまくれ上がったスカートから、一瞬はっとする白い太股が覗
いた。

(2)緋色の聖女
 教団本部に着くと、職員の誘導で教主宅まで車を回した。
 塵ひとつなく掃き清められた広大な敷地の中に、教団の建物が点在
していた。行き交う職員は一様に白い神官装束に身を固めている。「日
本の光教団」は神道系の教団なのだ。
 昨日のリムジンの横に駐車すると、隆の車は子供のように小さく見
える。カローラUという小型車で、GPターボという足の速いスポー
ツタイプを白くペイントしなおし、標準のエアロパーツもあえて外し
てある。外観をどこにでもある商用車にするため、見かけとは裏腹に
かなりの金をつぎ込んでいた。
 部屋に案内されるとみゆきが待っていた。個人的な道場のような部
屋である。寝室が隣にあるようだ。
 「ようこそおいで下さいました」
 今日のみゆきは、緋色の袴も鮮やかな神官装束で、ぐっと大人びて
見えた。
 グレーのスーツを着た隆を目にとめると、「探偵さんて案外と地味
ですのね」と言った。
 「トレンチコートでも着てくればよかったかな」と隆は笑った。
 みゆきが探偵に対して抱いているイメージが、あまりにステレオタ
イプなのが可愛かった。
 「ごめんなさい。私、自分でいうのも何ですけど、世間知らずなん
です。継承のための教育を小さいときから受けてきましたでしょう、
ボーイフレンドもいませんのよ。ましてや本当の探偵さんに会うのは
これが初めてなんです」
 みゆきはそう言ってくすりと笑った。
 「調査員てのは地味なもんです。それでなきゃつとまらない。本当
はあと十センチぐらい背が低いと俺も完璧なんだよ」
 みゆきはそんな隆を楽しそうに見つめていた。
 「ところで、この教団の中には、君の継承に反対する勢力があるの
かい」
 「それが・・・」と、みゆきの顔が曇った。
 まるで心当たりがないのだという。
 教団自体がまだ新しく、派閥も形成されていない。しかも、継承に
関してはかなり前から自明のことで、今さら反対する者などいなかっ
たというのだ。
 「すべては調査の上で考えましょう」と隆が言った。
 みゆきは一枚のコピーを渡した。
 「あさっての継承までのイベントスケジュールです」
 隆はその表を見ながら、警護プランを練った。スケジュールにそれ
ほどの穴は見えない。
 隆自身は調査にも手を回せそうだ。
 そんな隆の横顔を、みゆきはじっと見つめていた。

(3)快感芝居
 時計は夜の十時を回っている。
 教団本部も、他の企業同様、事務所以外の灯が消え、広い構内はひ
っそりと静まりかえっていた。
 みゆきは、むっくりとベッドから身を起こした。絹のナイティが肌
に擦れ、さらさらと小さな音をたてる。
 寝つかれないのだ。体の具合が悪いのではない。壁一つ隔てた隣の
部屋に、警護のために隆が泊まり込んでいる。それを思うと、体の中
に何か息苦しいような高ぶりがこみ上げてくるのだ。三十近いとはい
え独身の男性と一つ屋根の下にいる、それだけで世慣れぬみゆきの胸
は妖しく高ぶっている。

 続きの部屋の道場で、魂鎮めの行を行おうと、教本を取り上げた。
 しかし、道場で正座してもなかなか行には集中できない。
 みゆきはベッドに戻って横になると、隆の横顔を思い浮かべてシー
ツをぎゅっと抱きしめた。
 ナイティごしに、ざらりとしたシーツが胸にあたり、乳首をこすり
あげる。
 (ああ、なんて罪深い)
 そう思いながらも、みゆきはシーツを両のの腿で挟み込んだ。ぎり
ぎりと固くよじれたシーツが、ロープのように胸からへそへ、へそか
ら下腹部へと続いていた。
 みゆきは立ち上がると姿見の前に立った。
 ナイトスタンドの淡い光の中に浮かび上がる己の姿を見ながら、ゆ
っくりとナイティに手をかけた。
 顎から流れ降りるみゆきの手がまるでだれかに優しく脱がされるか
のように、ナイティの肩紐を外した。
 乳房の先に引っかかったナイティが、みゆきの身震いによってゆっ
くりと滑り落ち、腰のあたりで止まった。
 両腕で、ぎゅっと胸を抱きしめ、悩ましげに腰を振ると、ナイティ
は太股をこすりながら床に落ちた。
 小さなパンティ一枚の姿になったみゆきは恥ずかしげに身をよじり
ながら、自分の手で両乳房をもみしだいた。
 「ああっ、」と小さな声が漏れた。
 鏡に映る自分の恥ずかしい姿を食い入るように見つめながら、太股
をこすりあわせ、後ろを向いた。
 胸から脇腹に回した両手が、パンティごしに尻をまさぐった。
 「いや・・・」と小さな声を上げ、尻をゆすった。鏡に映した淫らな一
人芝居である。
 ゆっくりとパンティをずり降ろす。その脱がされる快感を味わうみ
ゆきの唇が、半開きになった。
 よじれて紐のようになったパンティを足に引っかけたまま、みゆき
はベッドに身を投げ、うつぶせに倒れ込んだ。
 「優しくして、優しく・・・」
 自分自身にそうつぶやきながら、右手は下腹部へ進み、一番敏感な
部分を手の平全体で押すようにしてこする。尻が高々とせり上がり、
切なげに左右に揺れている。
 シーツを咬んで声を殺しながら、中指は秘密の突起の回りをじらす
ようにしていじり始めた。
 目を閉じて仰向けになると、恥じらいは遠のいていく。
 左手は両乳房の上を左右に動きながら、乳首を転がし、つまみ、震
えさせている。
 「いやあ、そんなの」
 みゆきはそう言いながら腰を浮かした。
 左手の指か、突起をつまみ震わせたのだ。見えない誰かにおねだり
するかのように、白い尻が左右に揺れている。
 中指かそっと体の中に忍び込んだ。湿りを帯びた音をたて、指は出
入りを繰り返す。そのたびに、みゆきの声が切なく漏れる。
 やがて、体の中を震えが走り、つま先が反り返った。みゆきの意識
は、甘い快楽の中で深い罪の淵へと沈んでいった。

(4)夢遊の影
 隆はソファに横になったまま、考えをまとめていた。
 (どうにも合点がいかない)
 昼間、教団内外を聞き込んだのだが、みゆきの評判は上々で、怨恨
を抱くような者など皆無といってよかった。
 (教団自体に恨みを抱く外部の者の犯行だろうか)
 その時、廊下を忍び足で歩く音が聞こえた。
 隆は素早く起きあがるとそっとドアに近づいた。細くドアを開くと、
灯を落とした廊下の端を人影かよこぎったところだ。
 女のようだそれもかなり長身の。
 隆はそっと後をつけた。
 人影が教団の外へ出ようとしていると見当をつけ、隆は表に止めた
カローラに乗り込むと、グローブボックスからオペラグラスを出して
女を見守った。すらりとした長身を体の線にぴったりとしたスーツに
包んでいる。
 女は構内を横切って門に向かった。乗ってきたものだろうか、表に
はタクシーが待っていた。
 そこまで見届けると、隆はエンジンをかけタクシーを尾行した。

 シティホテルの一室である。
 女は隣室で男と会っていた。
 隆は集音マイクを壁に押し当て、息を殺して隣室の様子をうかがっ
ている。
 「気をつけてよ。みゆきが探偵を雇ったわ」
 「まかしてくれよ。探偵の一人や二人。俺だってここらじゃちょっ
と名が売れてんだぜ」
 男の声は若い。そこらのチンピラだろうと隆は思った。
 「これは」
 「継承の儀までのみゆきのスケジュールよ。この日が狙い目ね。こ
の時間なら一人で勤行だから犯行にはぴったり」
 「明日じゃねえかい」
 「ここ、ここから入れるわ」
 女は教団内部に精通しているようだ。
 「本当にいいのかよ」
 「遠慮しないでめちゃめちゃにしておやり。あの女の聖女面が気に
入らないんだ」
 しばらくの沈黙の後、女の強い口調が飛び込んできた。
 「何すんのよ」
 「いいじゃねえか」
 「すべて終わったら好きにしていいから。今日はこれで我慢おし」
 ジッパーを降ろす音が聞こえた。女の声が消え、男の荒い息使いが
聞こえてくる。
 おフェラか。
 (どこの誰かは知らないが大した女だ)
 隆は小さく苦笑した。

(5)愚問
 隆は罠を張った。みゆきを密かに別棟に移し、みゆきの部屋のクロ
ーゼットに忍んでいるのだ。
 腕時計を見た。本来なら勤行の時間だ。昨夜の男がやってくる。
 あの後、隆は尾行に失敗していた。男と女が別々に部屋を出たのに
気づかず、フロントへ走ったのだ。
 本来なら仲間の業者に携帯電話でヘルプを頼むべきだった。尾行は
二人一組がベストなのである。
 (俺もまだまだ甘いな)
 残された手は、ここに現れるであろう男しかなかった。
 クローゼットの隙間から、みゆきのベッドが見える。毛布を丸めて
人が寝ているように細工してあった。
 クローゼットの中には香水の匂いが残っている。
 (みゆきの匂いだ)
 隆は切ないような気持ちになった。自身が固くなり始める。
 (まるで高校生だ)
 そう思って苦笑した。みゆきとは住む世界が違うのだ。自分にそう
言い聞かす。
 突然現実に引き戻された。
 部屋のドアノブが静かに回ったのだ。そっと開いたドアの間から男
が入ってくる。見るからに低脳な面構えだ。二十何歳かだろうが、顔
にはまだ十代の青さを引きずっているようだ。おおかたの日本人同様、
似合わぬパンチパーマが猿を連想させた。
 顔に卑しい笑いを貼り付けているが、さすがに緊張の色は隠せない。
驚いたことにどこで手に入れたのか信者用の法衣を着ていた。
 道場をうかがうが人の気配がない。首をかしげながら男はベッドに
目を移した。
 うっすら笑うと、ベッドに近寄りシーツを剥いだ。
 からのベッドに気を取られポカンと口を開けた男の前に、隆はクロ
ーゼットから姿を現した。
 「誰を捜しているんだ」
 隆の言葉に唖然としていたあと、
 「はめやがったな!」
 と叫ぶなり男は拳を繰り出した。
 (ばかが)
 大振りのパンチをかいくぐって、相手の横手に体をさばくと同時に、
脇腹に体重の乗った突きを喰らわした。同時に右手首を掴み間接を決
める。
 一瞬、呼吸の止まった男は、体を折るようにしてうずくまった。
 ぜいぜいという短い呼吸に口をパクパクとさせ、唇の端からはよだ
れが糸を引いて床に垂れている。
 がっちりと間接を決めた男の右手を、背中に回して締め上げた。
 「誰に頼まれた」
 「知らねえな」
 ぐいっと力を込めると、男の肩がみしりと音を立てた。
 「うあっ、言う!言うから・・・」
 力を緩めるとかぼそい声で「さつきだ」と言った。
 「さつき?」
 「ディスコでよく会うんだ」
 「いくらでやとわれた」
 「四十万」
 「それだけか」
 「それと、さつきの身体だ」
 「そのさつきって女を呼んでもらおうか」
 「こっちからはできねえんだ。いつもこいつで呼ばれるだけで」
 男は身をよじると、ズボンのベルトに挟んだポケットベルを示した。
 「もう金はもらったのか」
 「ああ」
 「じゃあその金を持ってどこへなりと消えるんだ」
 「えっ、見逃してくれるんですか」
 男は急に卑屈な声を出して、哀願するような目で見上げた。
 「ただし」
 と言って隆はポケットベルを抜き取った。
 「こいつは預かっておく」
 男は無言で頭を下げると、逃げるようにして部屋を出た。顔には恐
怖でこわばった照れ笑いをうかべている。
 隆はポケットベルを見つめた。
 あとは、こいつが鳴るのを待つだけだ。

 ポケットベルが鳴ったのは、その夜のくじ過ぎだった。
 (おいでなすったな)
 隆はポケベルのメッセージを見た。伝言ダイヤルである。
 指示されたナンバーを押すと、受話器の向こうから、押し殺したよ
うな女の声が聞こえた。
 「ホテル・ジョイの二O五号室へチェックインしてちょうだい」
 隆は部屋を出ると、みゆきの警護状況をチェックした。
 信者から選抜したメンバー三人が、持ち場に就いていた。
 「みゆきさんは」
 「今、道場でお勤めの最中です」
 「そうか」
 隆はその言葉を予測していたかのようにうなずくと表に出た。
 いよいよ犯人とのご対面だ。

(6)大いなる眠り
 ベッドに腰を下ろし、隆は電話の女を待っていた。
 (まるでデート嬢を待っているようだ)
 隆はそう考えて苦笑する。
 ノックの音がした。
 ドアの陰に隠れてロックを開ける。
 女が部屋に入ってきた。
 さらりとした髪を長く背中にながしている。ミニのスーツが身体の
線を強調し、細身ではあるが、腰と腿が恐ろしく肉感的だ。
 針のように細いかかとのハイヒールが、身長を高く見せて、しかも
緊張した尻の肉がタイトなスカートごしにうかがえた。
 隆はドアを閉めロツクした。
 「しくじつたのね」
 そう言って振り向いた女が、あっけにとられて隆を見つめる。
 くつきりとしたメイクが瞳をきつく印象づけている。赤いルージュ
が鮮やかだ。スーツの胸元が大きくカットされ、肌がまぶしい。
 「あんたがさつきさんかい。それともみゆきと呼んだほうがいいか
な」
 隆は退路を断つようにして入り口に立ちふさがると、タバコをくわ
えて火をつけた。
 「今はさつきって呼んで、これが私の本当の姿・・・」
 女は表情も変えずに言った。驚きの表情は一瞬にして姿を消してい
る。自信に満ちた言葉だけはみゆきに通じるものがあった。美貌が自
信を裏付けているのだろう。隆もそれは認めざるを得ない。
 「みゆきはさつきの存在を知らないのだろう。あんたは多重人格な
んだ」
 と隆が言った。
 「あんたってけっこう名探偵ね。その通りよ。みゆきにたいして私
の方が上位人格ってわけ。だから今からは、みゆきって名前は禁句よ」
 さつきは隆の視線を充分に意識しながら、長い髪をしどけなくかき
あげた。
 「とどうする気、私を」
 隆の前に近寄ると、身体をくねらせながら猫のように身をすり寄せ
た。
 「犯人と被害者が同一人物じゃ、刑事事件としての立件は困難だ」
 そう言いながらも隆は、さつきの香水が理性を打ちのめすのを感じ
ていた。
 (チャンドラーの「大いなる眠り」の冒頭にこんなシーンがあった
な)
 思わずさつきを抱き寄せながら思った。もっともフィリップ・マー
ロウは眉毛も動かさずに娘をいなしてしまうのだか、悲しいかな現実
は別だ。
 腕の中でさつきが震えた。声を殺して笑っているのだ。
 「昼は聖女、夜は娼婦ってわけか」
 「さっきも言ったでしょ。これが私の本当の姿。みゆきが押し隠し
ている姿よ」
 「どういうことだ」
 「みゆきがオナニーをして、エクスタシーに達すると、私が現れる
ってこと。うふっ、とんだ聖女じゃない」
 さつきはそう言うと隆の腕の中から逃れ、ベッドの前に立った。
 隆はソファに腰を下ろして彼女を見つめる。
 さつきは形の良い唇を半開きにしながらスーツを床に落としブラウ
スの前を開けた。
 プラは肩紐のないタイプで、かろうじて乳首を隠す程度のハーフカ
ップだ。うっすらと汗ばんだ肌から、香水とは別の甘い肉の匂いが漂
ってくる。
 さつきは隆から目を反らさない。やはり自分の美しさに対する自信
がそうさせるのだ。
 隆の視線を存分に意識しながら、後ろを向いた。小さく張り切った
お尻を軽く揺すり、隆を挑発している。
  ブラウスを背中から落とし、ミニスカートのジッパーを下げた。ガ
ーターベルトが現れた。
 ぴったりと張り付いたミニスカートを少しだけ手で下げると、じら
すように腰を振って床に落とした。
 申し訳程度の大きさの絹のパンティが尻に食い込んでいる。
 振り向いて隆を正面から見据えた。
 ハーフカップのブラから覗く胸の隆起は、かならずしも大きいわけ
ではないが、均整のとれた見事なものだ。小ぶりではあるが標高が高
い。
 パンティは横がレースの紐になっている。前部はかろうじて茂みを
隠す程度の大きさだ。
 見事な身体だ。だが、それ以上に隆の目をとらえて離さないのが、
さつきの瞳だった。
 淫らな光を放ちながら、その目は隆に挑んでいる。
 さつきは唇をピンク色の細い舌で舐めながら、両手を自分の乳房に
あてがった。
 ブラのカップを舌にずらして手のひらで乳房を下から支えるように
もみしだき、親指と人差し指で、乳首をつまんでこねあげる。
 乳首だけは少女のそれのように小さく初々しい。そのピンク色の突
起が、さつきの指の間でみるみると固く飛び出してきた。
 右手がゆっくりと腹を滑り降りる。パンティのゴムに指をかけ、ぐ
いっと上に引っ張った。
 ハイレグカットのパンティがさらに食い込み、薄い茂みがかすかに
覗く。絹の布地に淫らなしわが寄った。
 さつきの腰が、無意識に小さくグラインドしている。さすがに恥ず
かしいのか、うっすらと半眼になっているが、同時にその恥ずかしさ
を堪能しているようにも見えた。
 「お願い・・・、来て・・・」
 隆は我慢できなくなり立ち上がった。
 抱き寄せると白い肌は吸いつくようだ。シャツごしでさえ、さつき
の固くなった乳首が感じられる。
 さつきの腕が隆の首に回り、ぐいっ、と体を押しつけてきた。
 鼻腔いっぱいに、さつきの髪の甘い匂いが充満する。
 背中に回した両手で、その肌を存分に楽しんだ。右手をお尻に回し、
紐のようなパンティごしにその柔らかな肉をもみしだく。
 食い込んだ絹はすでにしっとりと濡れていた。
 唇を合わすと、ルージュでねっとりとした肉の間から、さつきの舌
がむさぼるように侵入してきた。ちろちろと隆の口蓋を愛撫する。
 その舌に自分の舌を絡めると、隆は強く吸った。
 さつきの身体がぴくんと震える。首に手を回して、ぶら下がるよう
にしてしがみついている身体が急に重みを増して感じられた。
 感じているのだ。
 さつきは少し中腰になり、隆の腿にまたがるようにして下腹部を押
し当て、小刻みにグラインドしている。まるでランバダだ。
 「早く・・・早く脱がして・・・」
 もつれるようにしてベッドに倒れ込むと、隆は体を離した。仰向け
になったさつきの体を、じらすようにして両手で愛撫する。
 乳房の下にずらされて窮屈そうに乳首を飛び出させていたブラを外
すと、形のいい乳房が揺れた。若い胸はまだ固さが残り、弾むような
弾力がある。
 手のひら全体でもみながら、指の股に小さな乳首を挟んで震わせた。
もう片方の手は、パンティの上から柔毛の下の小突起を上下にさする。
 さつきの腰が浮かび上がり、その指の動きを促すように小さく上下
した。
 「吸って、吸って・・・」
 「どこを数の」
 「・・・乳首・・・恥ずかしいから早くう」
 隆はさつきの乳首を口に含むと、舌先で転がしながら、時折優しく
歯をたてる。強く吸うと、耐えきれぬような声が漏れた。
 下腹部に回した隆の指は、すでに小さな布の下に潜り込み、大きく
腫れて固さを増した唇と突起をつまんでいじめている。
 ちょうだい・・・、という甘えた声が、さつきの口からこぼれた。
 隆はまだ許さない。ゆっくりと体を離すとさつきの目を見ながら服
を脱いだ。69の体位でさつきの顔をまたぎ、ほっそりと形のよい両腿
の付け根に顔を埋めた。
 ハイレグのパンティをずらすと、すっかりと濡れているそこから透
明な粘液の糸が引いた。下を這わせ、大きく口を開いてその唇全体を
強く吸った。
 「ああん・・・」
 さつきは少しでも早く挿入してほしいのか、隆のものを口に含むと
むさぼるように吸った。いや、ただ吸うだけではなく、吸いながら舌
を転がしたり、軽く歯を立てたりと、想像以上のテクニックだ。
 さつきの腰が浮かび、隆の顔に柔毛をこすりつけてくる。
 隆は体を入れ替えると、くるりとパンティを剥いで、ゆっくりと挿
入した。さすがに若いだけあり、「固い」とでも言えそうな窮屈さだ。
それでも、いったん隆のものを根本まで埋めると、それはまといつく
ように締め上げてくる。
 挿入だけでさつきは達しそうになっていた。隆が腰を使うと、いや
いやをするように首を振り、すぐに一回目のエクスタシーを迎えた。
 紅潮した頬を両手で挟むようにして抱き寄せ、今度はさつきを上に
して本格的に腰を動かした。
 彼女の声が裏返り、動きに合わせてすすり泣きを始める。
 自分の手で両の乳房をもみしだき、乳首を強く引っ張りながら激し
く腰を動かしている。
 「こんなの初めて、や、やだあ、はずかしい・・・」
 「可愛いよ」
 「いやあ、死んじゃう!」
 急に締め付ける力が強まり、二、三度大きく震えると、がっくりと
体を前に預けて、さつきは達した。
 まばたきのようなけいれんが、隆自身を締め上げ絶頂を促す。隆は
素早く自分の者を抜き、果てた。
 下腹部に熱いものが広がっていく、

 うっすらと目を開けさつきが言った。
 「ありがとう」
 聞こえのトーンが落ち着いていた。
 「君は・・・」
 「ええ、みゆきです」
 「上位人格のさつきをみゆきが知っているのかい」
 「さつきはもう現れないわ」
 隆は悟った。彼女はみゆきでもさつきでもない第三の人格だ。みゆ
きとさつきを融合した、バランスのとれた女なのである。
 「教団内部の一番の反対者は君自身だったというわけだ」
 その無意識の拒否が、さつきという人格の浮上を促したのだろう。
 ふふふ、とみゆきが笑った。
 「そんな明るい声は初めてだ」
 「もうさつきは現れないわ。それに弱かったあのみゆきも・・・」
 そう言って、みゆきは隆の胸に顔を埋めると目を閉じた。
 やがて安心したような小さな寝息が聞こえてきた。

(7)ハードボイルドな夜
 表沙汰になることなく「事件」は解決した。もっとも事件そのもの
は、みゆきの内面で起きていたといえるだろう。
 あの一夜の後、みゆきは「日本の光教団」の二代目教主として、無
事に法脈を継承したという。
 一ヶ月ほどが経っていた。
 窓から差し込む日の光が、日没の赤味を帯びてきた。時計は六時を
回っている。
 事務所を閉めようと立ち上がると、電話が鳴った。
 受話器をとると「みゆきです」という声が聞こえてきた。
 かなり近くからかけているようだ。街の音が背後に聞こえる。時折
ノイズが混じるのは携帯電話のせいかもしれない。
 隆の頭にみゆきの白い体が浮かんだ。そして、さらりとした黒い髪
や、瞳の色も・・・。
 「ひさしぶりだね」
 「今夜会いたいの・・・」とみゆきの小さな声が言った。
 隆は、少し考えると言った。
 「もう会わないほうがいい」
 しばらく間があった後、「教団を背負ったような女は嫌いなの・・・」
と、みゆきが言った。
 それは教主としてのみゆきではなく、十八の娘にふさわしい甘えた
声だった。
 「そうだ」
 隆は声を絞り出すようにして短くそう言った。
 もっと何かを言うべきかと思ったが、それ以上喋ると、みゆきへの
未練を悟られそうだった。
 電話の向こうで、みゆきが涙を堪えているのが解った。
 「突然ごめんなさい・・・、でね・・・そうね」
 一瞬の間があった後、静かに電話が切れた。
 隆は、そっと受話器を置くと窓に近寄って外を覗いた。走り出した
リムジンが、テールランプをにじませて通りの角を曲がって行くのが
見えた。
 ウインドーごしに小さくみゆきの肩が見えた。
 もう二度と会うことはないだろう。そう思うと急にみゆきに対する
いとおしさがこみ上げてきた。
 しかし、一度でも会えば、どちらにとってもいい結果は生まれない
に決まっている。
 (俺は探偵、あの娘は依頼人・・・、それだけだ)
 隆は自分に言い聞かせた。
 探偵家業は、好むと好まざるとにかかわらず、他人の人生の裏側を
覗く職業だ。
 いやなことも多かった。しかし、いつまでもそれを引きずっていく
わけにはいかないし、引きずるべきでもない。同様に甘美な幻想も、
切り捨てねばならないのだ。
 それが隆の信条だった。
 窓から離れると、いすに腰掛けてデスクに足を乗せた。まるで昔読
んだ小説の中の探偵のように・・・。
 デスクの引き出しを開け、一番奥からウイスキーのポケットボトル
を取り出し、一口あおった。
 (何となく、ハードボイルドな夜じゃないか)
 と、隆は苦笑する。
 少年じみたそんな気取りを、今夜だけは自分に許そうと思った。
 隆は、もう一口ウイスキーを口に含んだ。
 熱い苦みが喉を焼き、やがてゆっくりと体中に広がっていった。
                        (おわり)


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