大蛇に追われた虚空蔵
さま




むかし昔、大むかし・・・赤坂山の虚空蔵さんが、まだ修業中の若いころ、托鉢しながら諸国行脚の
道すがらたまたま伊勢国の、とある家の娘に懸想されました。虚空蔵さまも木石ならぬ身の、若い
血湖がたぎり、つい心をひかれそうになりましたが「出家の身で修業の防げ、異性に心を奪われ
はならぬ」と、自らを戒め逃げ出したが”女の一念岩をも通す”の諺あるとおり、娘は大蛇に化身し
て、その後を慕って追いかけました。話変わってこちらは虚空蔵さま。旅の疲れとともに避けられぬ
生理的現象で、道傍で立小便をはじめました。ところが、その草むらの中で眠っていた大蛇に尿水
が降りかかったからたまりません。目を覚ました大蛇が鎌首をもち上げ、怒って飛びかかりました。
びっくり仰天、虚空蔵さまは、かぶっていた笠を脱ぎ捨てて逃げだしましたが、大蛇はどこまでも追
いかけてきます。息せききって逃げる虚空蔵さんは、のどが渇いて「ガラガラ、ゼイゼイ」苦しくて苦
しくてたまりません。とある一軒家でお茶を所望しましたが、「こじき坊主にやるお茶はない」と断られ
、やむなく道端のガマ(自噴井戸)の飲んで走り続け、とうとう赤坂山の岩屋の中に逃げとんだとこ
ろが、今の明星輪寺の本堂の裏です。笠を脱いだところが「笠縫町」で、水の沸いていたところが
「河間町」になったということです。また、女の化身した大蛇は、蛇王権現(蔵王権現の宮)の神とし
て、同寺の鎮守に今も祀られています。