「環境科学の基礎」

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酸性雨
酸性雨の定義
大気中の水に可溶な物質(エアロゾル粒子を含む)溶解しているがCO2以外の物質はすべてが微量成分なので溶解しても雨水のpHにはほとんど影響しない。雨水が大気中のCO2によって飽和しているときの雨水のpHは5.7になる。よって人為起源の酸性化物質が溶解してpHが5.7より小さくなった雨水を酸性雨と呼ぶ。
酸性雨の発生機構
大気汚染物質から酸性化物質が生成する反応機構の特徴は、硫酸や硝酸といった雨水を酸性化させる物質の生成にO3やCOといった大気汚染物質が関与していることである。また、これらの反応は汚染物質を吸着しているエアロゾル粒子の表面で起こりやすい。この反応の中心は主にオゾンと水との反応によって生じるOHラジカルと(CO+O2)との反応によって生じるHO2ラジカルの2つの物質である。これらの連鎖反応によってSO3とNO2を生成し硫酸及び硝酸ができる。
酸性雨の環境への影響
土壌への影響
降雨中の水素イオンは、最初に土壌中の腐植質の表面上のカルボキシル基や二次鉱物との反応によって除かれる。この緩衝作用によって土壌中からは栄養塩類が除かれることになる。これら物質中の水素イオンと交換サイトが飽和すると、次に水素イオンは母岩中の鉱物と直接反応してさまざまなイオンが放出される。長期間にわたって酸性雨が降ると、やがて酸性雨が中和されなくなってそのまま川や湖沼に流れ込み水生生物に影響するようになる。母岩が塩基性岩で構成されている地域では同程度の酸性雨が降っても影響が現れにくい。
川・湖沼への影響
水生生物は酸に対して抵抗力が弱く、pHが5以下になるとプランクトンや小型の動物に影響が出始める。また、魚の卵も孵化が不可能になって、酸性化が続くと湖には成長不十分な成魚だけになりやがて湖から魚が姿を消す。さらに鉱物の分解により放出されたアルミニウムイオンは魚に対する毒性が強く魚の死を早めることになる。
植物への影響
植物は生長に必要な成分CO2を気孔から取り入れ、水や栄養塩分を根から吸い上げる。葉についた酸性雨は気孔の細胞を破壊し、二酸化炭素の取り入れを困難にしたり、葉緑体を損傷して光合成を阻害する。また根より吸い上げられた水素イオンは根の細胞を破壊して栄養塩類の取り入れを困難にする。さらに酸性雨によって栄養塩類は洗い流され、土壌中の小動物や微生物の働きが低下するので光合成が鈍化し、葉量が減少することになる。この現象が進むと木自身が枯死することになる。
人間への影響
酸性霧のような細かい水滴が呼吸によって肺に取り込まれ一時的な呼吸困難を起こしたり、目の粘膜を刺激するといった被害がでることである。人間への影響は人体よりむしろ歴史的建造物、野外の彫像などが酸性雨によって腐食する被害のほうが大きい。
酸性雨対策
酸性雨に関連する3つの大気汚染物質、エアロゾル粒子、硫黄及び窒素酸化物の発生を抑制したり、発生源での回収技術を改善する必要がある。
微粒子の回収

  1. 重力沈降法−−粒径が50μm以上の粒子に有効。
  2. 遠心分離法−−粒径が1μm以上の粒子に有効。
  3. 湿式洗浄法−−ノズルより放出された細かい水滴の表面に微粒子を吸着させて気体より除く方法で粒径が0.05μm以上の微粒子を除くことができる。
  4. ろ過法−−目の細かいフィルターに気体を通過させることによって微粒子を除く方法で粒径が0.01μm以上の粒子を補集するのに利用される。
  5. 電気集塵法−−放電線と集塵板の間に直接高電圧(50keV程度)をかけると微粒子が帯電して集塵板に引き寄せられて気体から分離する。粒径が5nm程度の超微粒子を回収することができる。

硫黄酸化物の濃度制御
発電所や工場の排煙から硫黄酸化物の濃度制御を行うには湿式脱硫法が広く利用されている。
湿式脱硫法には

  1. 発電所などで使用される石灰岩−石膏法
  2. 工場などで使用される水酸化マグネシウム

の2つがあり、いずれもSO2と水酸化物との反応を利用して、硫酸塩もしくは亜硫酸塩として回収するものである。硫黄の回収率が90%となり効率のよい方法であるが建設コストやランニングコストが高くつくという難点がある。
窒素酸化物の濃度制御
固定排出源
アンモニア接触還元法の反応を利用してNOxを窒素と水に還元する。触媒には酸化チタンTiO2を担体にした、五酸化バナジウムや三酸化タングステンを用いる。この方法により90%以上のNOxを除去することができる。
移動発生源
車からの汚染物質の濃度制御は、

  1. シリンダー内での燃焼に伴うこれらの気体の生成量を減少させること
  2. 燃焼ガスを処理してこれらの気体の排出量を減少させること

によって行われる。
現在使用されている車のほとんどは(2)の排ガスの処理装置を搭載している。排ガス中のNOをN2に還元したのちO2を取り込んでCOとHCをそれぞれCO2とH2Oに酸化することを目的にしている。実際には酸化触媒は十分に機能するが、還元触媒上では複雑な反応が起きてNOが十分には還元されない。

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オゾン層の保護
オゾンの性質
オゾンが酸素と比べて不安定で、容易に分解して酸化力のある酸化原素を生成する。大気圏でおこるオゾン反応のうち

  1. 光化学スモッグの発生機構に関する、大気中に含まれる有機化合物から水素原子の引き抜き反応やオレフィン類への付加反応
  2. オゾンと生体物質との反応で重要な役割をする水分子の酸化反応やアミノ酸のスルフィド基の酸化反応

などが重要である。
オゾンの発生と分解
オゾンは酸素原子と酸素原子との反応によって生成する。成層圏では、O原子は波長240nm以下の紫外線を吸収したO2分子の光解離によって生成するがエネルギー状態は吸収する紫外線の波長によって異なる。
NOx及びHOxサイクル
脱窒菌の代謝によって対流圏に放出されたN2Oが成層圏に到達するとOと反応してNOが生成する。
N2O+O(D)−>2NO・・・(D):励起状態

一酸化窒素はO3の分解反応の触媒として働く。
オゾンの分解過程では

  1. NO+O3−>NO2+O2
  2. NO2+O−>NO+O2

により1個ずつのO3分子が分解される。
このサイクルはNOとNO2がOHラジカルと反応するかNO2がClOと反応することによって停止する。NOxサイクルによるオゾンの分解速度は酸素単独のときの速度の約4.7倍である。成層圏のオゾン濃度に影響するもう1つの化合物は大気中に含まれるH2Oである。水は成層圏まで上昇すると紫外線によって分解されたり、酸素原子と反応してOHラジカルを生成する。NOxサイクルと同様にOH−>HO2−>OHの変化に伴ってO3分子1つが分解する。オゾンの分解反応速度は酸素単独のときの約0.4倍である。
紫外線の環境への影響
健康への影響
紫外線の人体への影響を考えるときには波長を、A(380ー320nm)、B(320ー280nm)、C(280ー200nm)の3つに分けて考える必要がある。紫外線の人間の健康への影響は紫外線の透過力が小さいため体の表面に限定されるが、

に分けられる。
A紫外線の生体への影響は、水分子が紫外線を吸収して生成した反応性の高い化学種(OH、H、Hイオン)の反応による間接作用である。
B紫外線はDNAに直接作用してDNA鎖の切断や構造変化を引き起こす直接作用である。
植物への影響
紫外線の増加は、

  1. 光合成の電子伝達系の阻害
  2. 酵素反応の阻害
  3. 遺伝子の損傷などによって海洋の表層に住む植物性プランクトンから陸生の植物までのさまざまな植物の一次生産量を減少させる。

海洋生物は年当たり100億トンの炭素を固定しているので紫外線の増加はCO2の生物地球化学サイクルに影響して、地球の温暖化を加速する可能性がある。陸生植物のうち、大麦、カラス麦、大豆などはB紫外線に対して感受性が高く、イネ、ライ麦は中程度の感受性、小麦、トウモロコシはほとんど影響されないと報告されているが地球全体の食料生産への影響については研究が進んでいない。

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地球の温暖化
大気中に含まれる物質のほとんどは可視光に対して透明であるのに対し、地表から放出される赤外線に対しては不透明である。大気のこの性質は地表を暖める効果をもつもので温室効果と呼ばれる。
地球の熱収支
太陽が地球を照射するエネルギー=342W/m2
プランクの黒体放射式により説明することができる。太陽光スペクトルより表面温度が6000Kの物体が放出するものに近似できる。太陽の放射エネルギーは表面温度で7.35X10^7W/m2、そのうち地球に到達するのは約4.5X10^(−4)%に過ぎない。

地表(40W/m2)及び大気(195W/m2)のエネルギーを宇宙空間に放出することによって熱収支があう。
大気の温室効果
地表と大気からは235W/m2のエネルギーが放出されるので地表と大気に温度差だないとするとその温度はプランクの黒体放射総和式により254K(−19℃)となる。実際の地表の平均温度は288Kであるからこの温度差が雲を含む大気が地表を暖める温室効果である。また、大気が宇宙空間に向かって195W/m2のエネルギーを放出しているため、平均気温は、242K(−31℃)となる。すなわち大気の温室効果によって地表が暖められるかわりに、大気が冷却されることによって地球全体で熱収支がつりあう。
温度が288Kの地表から放射される光の強度が最大になる波長は10.0μmとなりこの波長は赤外線に相当する。
温室効果ガス
サハラ砂漠の上空から測定した地表からの放射光スペクトルは温度が320Kの黒体放射の式から計算されたスペクトルと一致しており、地球放射光の一部を、CO2、H2O、O3が吸収している。温室効果ガスの温暖化に対する寄与は、その物質の吸収する赤外線のエネルギー量によって決まる。温室効果ガス、O3、及び化石燃料が起源のススの濃度の増加と太陽活動の活発化が温暖化への正の寄与をしているのに対し、成層圏でのO3濃度の減少及び対流圏での硫酸塩とバイオマスの燃料によるエアロゾル粒子の濃度の増加は温室効果に負の寄与をしている。
メタン
メタンは温室効果能がCO2に続いて2番目に小さいが、人為的な温室効果への寄与はCO2に次いで2番目に大きい物質である。発生量の30%は自然起源で湿地や海洋における生成菌の代謝に伴って生成する。その濃度は0.7ppmvで一定していた。人為的な発生源は化石燃料の使用及びメタン生成菌によるゴミの発酵と水田のような農地で全体の70%を占める。対流圏に放出されたCH4は80%以上が成層圏に移動し、残りは土壌に吸収されたり対流圏で分解される。
一酸化二窒素
一酸化二窒素はCO2の約200倍の温暖化能を持ち、人為的な温暖化への寄与はCO2及びCH4ニ次いで3番目である。自然起源のN2Oは発生量の約60%を占めるが、海洋からは溶解している有機化合物の鉱物化に伴って、土壌からは脱窒菌の代謝に伴って放出される。人為起源のN2Oの2/3が農地から脱窒菌の代謝によって放出される。
オゾン
大気中に含まれるO3のうち90%以上は成層圏に、残りが対流圏に存在している。オゾンはCO2の約400倍大きい温暖化能を持っているが、寿命の短い不安定な物質であるため対流圏では均一に分布せず地域的な濃度の違いが大きい。対流圏でのO3の生成は人為起源のNOxが関係するので北半球の工業国での濃度が高い。
有機ハロゲン化合物
ハロゲン元素を含む有機化合物は、温暖化能がCO2の1万倍以上で、少量でも大きな効果を示す。CFC類は放出量が激減して、大気中の増加率が負になっているが、ハロン類の濃度は未だに増加の傾向を見せている。CFC類の代謝物である未規制のH,F,CのみからなるHFC類やSF6もCFCと同程度の温暖化能をもつので、大気への放出規制が必要である。
エアロゾル粒子
エアロゾル粒子の温暖化への寄与は

がある。
温暖化に大きく影響するのは火山の噴火や人為的なSO2放出によって生成する硫酸塩粒子、化石燃料からのスス、バイオマス燃料に起源のある微粒子である。

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家庭用水の処理・上水処理
飲料水は、本来は汚染物質をまったく含まないのが理想的ではあるが、いったん汚染された水を完全に清浄するのは技術的に可能であっても経済的には不可能である。そこで日本では水道法によって飲料水中の46種類の物質の濃度が規制されている。
上水処理は、

(1)塩素処理−>(2)緩速ろ過−>(3)急速ろ過

を組合わせた方法が利用される。
塩素処理法
水中の細菌類を除くためには通常塩素殺菌法が実施されている。塩素は水に溶解して次亜塩素酸(HOCl)を生じる。次亜塩素酸はさらに解離して酸化力のある次亜塩素酸イオンを生成する。塩素殺菌法は細菌類の除去としては有効であるが、ウィルスの除去には不適当である。しかも塩素は、水中で腐食酸などと反応して発ガン性のトリハロメタンを生成するため、コストは高いがオゾン殺菌法の導入が検討されている。
緩速ろ過法
処理水がろ過床をゆっくりした速度で通過する間に、汚染物質がろ材の表面に吸着されたり、ろ層表面の微生物によって分解されることによって処理水から除かれる。化学薬品を使用しない理想的な方法であるが、広い浄水場が必要なこと、原水が多量の有機物や肥料からくる硝酸性窒素を含んでいると処理が不完全になる危険性があるといった問題がある。
急速ろ過
原水を塩素で殺菌した後にろ過床に通過させて汚染物質を除去する方法である。最もコストパフォーマンスがよいので日本で最も普及している方法である。
家庭排水の一次及び二次処理
家庭からの排水は、(1)直接河川に、(2)各家庭に設置してある浄化槽で処理をさせた後河川へ、(3)下水処理場に送られてそこで処理をされてから河川に放流される。
現在では下水処理の普及が進んでおり、河川の汚染もかなり最善されてきている。家庭などから出た排水は、好気性生物の代謝を利用して有機物を処理するために下水管を通って下水処理場に運ばれ、一次処理、二次処理をへて河川へ放流される。
一次処理
有機物、窒素及びリン化合物を含む下水はまずスクリーンによって固体や油分が除かれ沈殿槽に送られる。沈殿槽では必要であれば凝析剤を加えて水中に分散していた固体を沈殿させる。物理的な方法による排水処理を一次処理と呼ぶ。
二次処理
一次処理後の上澄み液が次の活性汚泥槽に送られ、そこで空気を送りながら好気性微生物と接触させる。好気性微生物は次式によって水中の有機物を分解する。
C,H,N,O,S+好気性微生物−−>CO2、H2O、硫酸イオン、硝酸イオン
処理水は沈殿槽に送られ、水に不溶な分解生成物が汚泥となってそこで沈殿し、汚泥の一部は再び活性汚泥槽に戻される。生物の力を利用する排水処理を二次処理と呼ぶ。
汚泥の処理
汚泥には雨水とともに流入した土壌や分解されなかった炭水化物、脂肪、タンパク質などが含まれている。一次と二次処理で生じた汚泥は水分除去されそのまま焼却して灰にする。以前はその灰を埋め立て処分していたが、最近は焼却灰を加工して道路の舗装に利用したり焼却する代わりに適切な処理をして肥料として利用されるようになってきた。
産業排水の処理
産業排水は家庭排水と違って有害な有機物や金属イオンなどを含んでいることが多いのでまったく異なる処理法が必要になる。処理法には、(1)吸着法、(2)浸透法、(3)電気透析法の3つがあるが物質によって処理法が異なる。

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農薬
農薬の種類
農薬はその使用目的によって(1)殺虫剤、(2)殺真菌剤、(3)除草剤、化学構造から(a)分子中に炭素の二重結合が二つ含まれているジエン化合物、(b)分子内に水素原子の一部が塩素原子に置換されたベンゼン環を含む芳香族塩素化合物、(c)リンにエステルや硫黄の結合した有機リン酸、(d)カルバミン酸化合物の4つがある。
殺虫剤は使用される量が最も多く、害虫を殺傷する目的で散布する農薬であるが、散布した地域の昆虫や小動物も同時に殺傷することになる。場合によっては散布した人間自身にも農薬中毒が起こる可能性がある。殺真菌剤は収穫後(ポストハーベスト)の作物にかびなどが発生するのを防ぐため、除草剤は不必要な雑草を枯死させて除くための農薬である。
農薬の作用機構
農薬がどのような機構で昆虫や植物に作用するかまだ明確には理解されていない。殺虫剤の多くは昆虫の神経系に作用するので、殺虫剤の効果は神経の信号の伝達に関連するものであろう。昆虫でも脊椎動物と類似の神経細胞間のパルスの伝達が行われているとすれば殺虫剤は神経伝達物質の代謝を阻害するものと考えられる。除草剤の植物の作用機構も明確に理解されていないが、その類似化合物が植物の成長ホルモンと構造が類似しているので、植物の過度な成長を促進させて植物内の物質バランスを崩して枯死させると考えられている。また、カルバミン酸類は、光合成や葉緑体の合成を阻害することによって植物の成長を遅らせて枯死させる。
農薬の環境への影響
農地などに散布された農薬は環境中で太陽光、水、酸素との反応によって、また微生物の働きによって他の化合物に変化していく。農薬が環境中で分解する速度は、農薬のタイプによって異なるが、その速度は、温度、湿度、土壌のpHなどさまざまな環境因子によって支配されるので一定の値を示さない。速度が小さいものとしてDDTの半減期が1ー10年、大きいものでは、有機リン酸系農薬の半減期が数日から1ヶ月程度である。半減期の短い有機リン酸系農薬は適当な間隔をあけて散布すれば環境中に蓄積されることはないが、散布を繰り返すと害虫が耐性を獲得する。半減期の短長い有機塩素系農薬は環境中に残留し、食物連鎖によって上位の補食者である動物にさまざまな被害をもたらす。人間もその例外ではなく肝機能障害やガンの原因になる。
生物学的防除
殺虫剤に頼らない病害虫の駆除は、

  1. ある昆虫に特有の幼若ホルモンや性誘起物質を利用する。
  2. 捕食天敵や寄生天敵を導入する。
  3. 放射線などによって雄を不妊化させるなど

組み合わせて行う方法で、殺虫剤に依存するよりも環境に対する負荷はかなり小さくなる。
殺虫剤を使用するよりもコストを極めて低く抑えることができる。

「よくわかる新繊維のはなし」

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タンカーの重油流出事故に大活躍する高性能油吸着材
ロシアタンカー「ナホトカ」での大量重油流出事故で、流れ出した重油を取り除くための道具として活躍したのが高性能油吸着材繊維である。油を吸い取るために必要な特徴、すなわち疎水性と親油性の機能を持ち合わせた繊維はポリプロピレン(PP)を原料としている。この吸着材は繊維の表面積を多孔質構造にすることにより油を吸着しやすくした。
この高性能油吸着材の吸着能力は、重油だと自重の14倍、機械油で25倍に及ぶ。また、吸い込んだあとの絞りによる脱油効率が90%あるため繰り返し使うことができる。

「リサイクル工学」

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廃棄物の種類と量
「廃棄物」とは、法律的には「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」(以下「廃棄物処理法」)に基づき、ゴミ、粗大ゴミ、燃え殻、汚泥、糞尿、廃油、廃酸、廃アルカリ、動物の死体その他の汚物又は不要物であって、固形状または液状のものを言う。(廃棄物処理法第2条第1項)
この定義によれば「廃棄物」であるためには、第1に「汚物」または「不要物」であることが条件となる。しかし、この条件は多分に主観的なものである。
厚生省では、「廃棄物とは、占有者が自ら利用し、または他人に有償で売却することができないために不要になった物をいい、これらに該当するかどうかは、占有者の意志その性状等を総合的に勘案すべきものであって、排出された時点で客観的に廃棄物として観念できるものではないこと。」(昭和52年3月26日厚生省水道環境部環境整備課長通知)と断っている。
従って、たとえ価値があるように見えても、占有者が不要であると観念し、また、その物が有償で取引きされないような物であるときには廃棄物となるし、逆に価値がないように見え占有者が不要であるとみなしても有償で売却できる物であれば廃棄物とはならない。
第2に、固形状または液状であることが廃棄物であるための条件となる。

「リサイクル工学」

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農産副産物
排出状況と処理・使用法
我が国の米産業に伴う、農産物としての稲わらや籾殻の排出状況については、平成6年度は稲わらが1176万t、籾殻が257万tになる。平成6年度の米の生産高は約950万tであるから、米に対して約1.6倍もの農産副産物が排出されることになる。
稲わらは、すき込みや堆肥、あるいは家畜の粗飼料、畜舎の敷料、マルチング材料として全体の93%が、わら工芸として2%が使われる。燃焼その他廃棄物として使われるのは全体のわずか5%である。一方籾殻も廃棄処分されているのは1/3である。米生産に伴う廃棄物は、稲わらと籾殻の中の10%に過ぎない。
再資源技術とその問題点
籾殻に関しての有効利用には、籾殻に含まれる珪酸の利用技術があげられる。籾殻の灰分には珪酸が含まれており、これを原料とする高付加価値のセラミックス素材、二酸化珪素、炭化珪素、窒化珪素、珪酸カルシウム等を製造する研究がなされている。
籾殻は完全燃焼すると、灰の成分はSiO2成分が95%以上でK2Oが1−2.5%含まれ他の成分は極めて少ない。籾殻灰は籾殻の細胞構造をそのまま珪酸質骨格として残すので、多孔質かつ大きい表面積を有する。燃焼条件を制御することで籾殻灰の結晶化度と結晶相を制御できる。低温下または短時間の燃焼では非晶質シリカになるが、高温下、長時間燃焼ではクリストバライト、次いでトリジマイトに結晶化していく。いずれも熱力学的には不安定な相で、石英に結晶化しにくい。籾殻灰を工業原料とみる場合、珪酸としての用途を探索すべきである。

「バイオレメディエーション」

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バイオレメディエーションの概要
バイオレメディエーションは有害な有機化合物を生物学的に分解し、炭酸ガスやメタン、水、無機塩、バイオマスなどの無害な物質に分解することである。それらの副産物はもとの物質よりも単純な構造のものである。そのプロセスは基本的には炭素サイクルの延長であり、そこでは炭素が有機物と無機物の間を、酸化反応と還元反応を通じて行ったりきたりする。
バイオレメディエーションの概念は、有機廃棄物のコンボスト処理技術であり、地表にわらなどを敷き詰めて土壌水分の蒸発を防止するマルチ方法と類似している。その技術は食品廃棄物、農業廃棄物、廃水処理などに応用されている。最近では、有害廃棄物や汚染された土壌や地下水を修復する技術に拡大している。
自然のバイオレメディテーションは汚染物質が土着の微生物により分解されるものでそれらの微生物は供給された栄養源と電子受容体をエネルギー源とする。自然のバイオレメディテーションにおいては、多くの汚染物質の処理効果を見落とすことが多いのが欠点でもある。その速度は、栄養源と電子受容体の供給量によって決まるが、汚染物質が人間の健康と環境に有害であるため高効率のバイオレメディテーションが必要とされている。
バイオレメディテーションの原理と基本技術
微生物の生態学と生理学
生物分解の基本となるものは従属栄養性の微生物と菌類であり、それらは炭素源とエネルギー源を有機物から取り出す。有機汚染物質は特殊な環境条件が必要な成分の場合は複雑な微生物群で分解することになる。
微生物の成長のための栄養源としての有機汚染物質
バイオレメディエーションを適用する理想的な条件として、自然の有機化合物(石油系炭化水素、フェノール、クレゾール、アセトン、セルロース廃棄物等)が対象であり、これらは微生物成長のための栄養源になる。これらは、炭酸ガス、水、微生物バイオマスに変換され副産物や代謝物の蓄積がない。その循環は自己保持型プロセスであり適当な温度条件、pH、温度、無機栄養源、電子受容体などの条件を設定しなければならない。このプロセスは、都市ゴミや産業廃棄物の処理にこれまで使われてきた。さらに、木材処理の廃棄物に使われるクレオソート、石油精製プラントの炭化水素廃棄物、流出油、地下の貯蔵タンクから流出した油で汚染された地下の土壌などのバイオレメディエーションにも使われるプロセスである。最近では、有機合成化学物質の種類も増えているが、自然環境の中で無機化しているものもある。多くの除草剤や洗剤の初期の製品は分解されにくかったが、現在では簡単に無機化されるようになっている。
微生物の増殖と代謝に必要な条件
一般に要求される条件について示す。
<温度>
耐熱性微生物の生物分解温度範囲は40−60℃であるが、それらを利用するのはコンボスト製造に限られていた。生物分解は0−10℃でも起こることが確認されている。中間の温度範囲は、10ー40℃であるが実用的には、汚染物質を人工的に一時加熱して生物処理の前処理とする方法もある。生物分解速度を予測する場合に、添加した微生物や媒体が単純に生物分解の触媒になるのではなく、生物分解に適した微生物が複雑に組み合わされた微生物圏を作るという考え方が重要である。従って、2、3℃の温度変化が微生物群の構成と機能に大きな変化をもたらすことがある。
<栄養源>
無機栄養源、特に窒素とリンはほとんどの生物学的なプロセスにとって重要である。たとえば、硝酸塩、アンモニウム塩、尿素、燐酸塩などがあり、原位置処理においてどれを選ぶかは、燐酸塩と地下水、土壌中のカチオンとの相互作用に影響されるので現場の地球化学的な性質により決めることになる。汚染修復処理の試験では必要な栄養源を決めることが目的の一つである。初期の都市ゴミのバイオレメディエーションプロジェクトにおいては、炭素源の供給量を決めてから窒素とリンを最適な比率で供給していた。バオレメディエーションにおいては、一般的には高濃度の栄養源は必要ない。その理由は、バイオマスがその系から流出することがなく、ほとんどの栄養源がリサイクルされ系の中で循環しているためである。
<pH>
最適pHは現場の条件とプロセスの条件により特有であり、通常はpH6−8.5の範囲でほとんど問題がない。バイオレメディエーションの多くは、酸あるいは塩基を生成するので、系のバッファー容量を十分大きくとり中和剤を添加して最適なpHを維持する必要がある。
<電子受容体>
微生物が増殖するのに必要なエネルギーの多くは、有機基質から無機の電子受容体に電子が移動するときに得られるものである。従って適正な電子受容体が生物分解には欠かせない。この電子受容体をどうするかがバイオレメディエションの設計のポイントである。一般的には、電子受容体は炭酸ガス、硫酸塩、硝酸塩、酸素である。上記の電子受容体には互換性がない。いくつかの微生物は、酸素も硝酸塩も最終電子受容体として使うが、それぞれに適した電子受容体を使う微生物は明確に区別される。微生物の種類は、無機の電子受容体が得られるかどうか、システムに酸化還元ポテンシャルがあるかどうかによって決まる。また、電子受容体が変動すれば微生物群は自然に変動する。Bouwerは1992年酸化還元ポテンシャルと生物分解の関係を報告している。
<汚染物質の生物処理の可能性>
微生物は有機物を無機化する代謝機能を持っているがそれらが水に溶けなかったり吸着したり、細胞に作用できないために代謝機能が働かない場合が多い。多環式芳香族炭化水素の生物分解には限界がある。それは、汚染物質がバイオマスとなじまないからである。生物処理は特に原位置処理において重要である。原位置処理の現場では汚染物質が排水液として局部的に散在する。微生物は、水に溶けにくい物質、あるいは混じりにくい物質に対して界面活性物質を生成してそれらを溶けやすくする能力がある。
バイオレメディエーションの対象になるほとんどすべての有機汚染物質は、高濃度になると毒性を持つ。しかし、多くの高分子の炭化水素は、水に溶解する限界濃度程度では毒性はない。毒性は、生物処理の可能性を左右し、吸着している成分は一般には毒性が少ない。微生物は毒性のある有機化合物に対してその感度が大きく変化するが、微生物群は高濃度の毒性化合物にも順応していく性質がある。生物処理の可能性を試験するときには、廃棄物が特定の微生物に対して毒性がどの程度であり、分解可能かどうか一般のバイオマスに対する毒性はどうかを確認することが重要である。濃度の異なる汚染物質の中で微生物群による生物分解速度を測定することが、単純な毒性試験や培地中の微生物を計数することより重要である。

「過酸化水素除去装置」Patent D.B.

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【要約】
【課題】 過酸化水素を除去する能力が高く、半導体工場で発生するような過酸化水素含有排水の水量の変動や過酸化水素濃度の変動にも 対応できる過酸化水素除去装置を提供する。
【解決手段】 槽51内に、木炭9と、通水及び通気可能な空隙を有するプラスチック材10とを組み合わせて構成される第1分解部16、第2分 解部17および第3分解部8を備える。第1,第2分解部16,18は、排出口42のレベルよりも下側で、底板51Eから離間した鉛直方向の仕切 板13の両側に設けられている。第3分解部8は、排出口42のレベルよりも上側で、かつ第1,第2分解部16,17の上方に設けられている。 第1分解部の下方からガスを上方へ向けて吐出するガス吐出部12と、槽51内の排水を汲み上げて第3分解部8上に散水する散水手段18を 備える。

「カルシウム水溶液の製造方法」Patent D.B.

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【要約】
【課題】炭酸カルシウム、炭酸水素カルシウム、貝類の殻、サンゴ等のカルシウム源を有機酸で溶解してカルシウム水溶液を製造する場合、 大量の炭酸ガスが発生し、それによって大量の気泡が容器内に充満するため、カルシウム源の添加量を調節しながら徐々に溶解せざるをえ ず、カルシウム源を完全に溶解するまで長時間を要するという欠点があった。
【解決手段】上記のカルシウム源を有機酸に溶解するに際し、セルロース、ケイソウ土、パーフライト、活性炭、粉末木炭などのろ過助剤を添加 することにより、気泡を大量に発生させずカルシウム源の溶解時間を大幅に短縮した。

「植物活力剤」Patent D.B.

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【要約】
【課題】 植物病害菌に対する防除効果及び生長促進効果を有し、環境を汚染することなく、安全性の高い植物活力剤を提供する。
【解決手段】 キチンオリゴ糖と、キトサン、キトサンオリゴ糖及びそれらの塩から選ばれた少なくとも一種とを含有させて植物活力剤とする。賦 形剤及び徐放化剤として、モンモリロナイト、バーミュキュライト、ゼオライト、ケイソウ土、活性炭、木炭から選ばれた少なくとも一種を加えるこ とが好ましい。キチンオリゴ糖の有するファイトアレキシン誘導活性(エリシター活性)と、キトサン、キトサンオリゴ糖及びそれらの塩から選ばれ た少なくとも一種が有する植物の病原菌に対する抗菌活性とが相乗的に作用して、それらを単独に用いた場合より、顕著に優れた耐病性付 与効果と生長促進効果とが得られる。

「二酸化チタンを含有する木炭及びその成型物」Patent D.B.

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【要約】
【課題】 家庭用水道水中もくは工業水道水中にトリハロメタン等のハロゲン化有機物に対する優れた分解能をもつ光半導体である二酸化チタ ンを、優れた吸着性能を有する物質に担持させた環境汚染物質処理材料を提供することにある。
【解決手段】 木粉及び二酸化チタンを原料として用い、その原料を攪拌混合して得られる混合物を成形し、この成型物を炭化炉にて500乃至 100℃の温度条件下で炭化して得られる二酸化チタンを含有する木炭。

「炎症反応を抑制するためのジ−ベータ−D−グルコピラノシルアミン化合物の使用、及び合成方法」Patent D.B.

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【要約】 有害な炎症反応は活性成分としてジグルコシルアミンを有する組成物を有機体に投与することによって治療することができる。好適な化合物 はジ−ベータ−D−グルコピラノシルアミンである。高い純度のジグルコシルアミンを製造する簡単な方法は、グルコースと、窒素含有塩基と、 メタノールもしくはエタノールとを反応させジグルコシルアミンを形成し、その後好ましくは木炭を使用してジグルコシルアミンを回収することで ある。好適なジグルコシルアミンであるジ−ベータ−D−グルコピラノシルアミンは優れた抗炎症効果を有する。調剤上受入可能な担体で調製 することにより炎症治療に有効な薬剤組成物を形成することができる。この薬剤組成物は、有機体において細胞機構の動的網状組織が分裂 した結果生じる有害な炎症反応を治療するために使うこともできる。さらに、この組成物を適用することにより、細胞防衛網状組織がバランスを 失っている有機体において細胞防衛網状組織のバランスを回復することもできる。このアンバランス状態において、組成物は炎症の病状を治 療し、生体内の炎症抑制系を活性化する。これらの有害な炎症反応はまた、NH3+イオンの存在下において約7.0以上のpHでグルコースを 有機体に投与することによって治療可能である。グルコースは好ましくは、単体又は他の薬剤と組み合わせて腸溶性コーティング状のグルコ ースを経口投与することにより使用可能である。