最後のピンチヒッター

〜 今村騎手、ポレールに騎乗 〜


第一章   違いすぎる運命

 ポレールは一昨年の最優秀障害馬である。そして昨年春、中山大障害3連覇を達成した。秋の中山大障害では2着に敗れたものの、間違いなく障害界のトップに君臨していたのはこの馬であった。 だが今年1月、調教中に骨折、復帰も危ぶまれていたが、驚くべき回復力で見事に復帰した。復帰緒戦は4着だったものの、ポレールの存在が障害ファンにとって「一流スター」であることに変わりはなかった。 注目度も高く、知っているファンは多い。

 今村騎手は昨年のデビュー騎手である。だが昨年は勝てなかった。平地障害問わず騎乗していた。今年に入ってもそうだった。コロニーターフという、全く勝ち目のなかった障害馬もお手馬だった。 そんな彼だったが、今年4月ようやく初勝利を挙げた。しかし苦難は続き、9月は騎乗なし。10月以降は単身で福島に乗り込んで修行中。それでも2勝目は遠かった。彼のことを知る人は少ない。 知っていても、おそらく「JRA記録である、初勝利までに136戦を要した」など、この騎手のことを一流と思っている人はいないだろう。

第二章   もくろみ

 ポレール陣営は翌週の京都大障害(秋)に向かう気配は全くなかった。斤量が重くなってしまうためだ。京都大障害(秋)に出れば67kg、 東京のオープンでも同じ67kgだが、減量騎手を使えば斤量は軽くなるからだ。3kg減騎手を使っての64kgでの出走をもくろんでいた。 そして、大目標の中山大障害(秋)へ負担をかけたくなかったからだ。中山大障害4勝目こそ、この馬の最大目標であった。 前走同様白浜騎手を予定していた今回だが、落馬負傷で休養中のため、関東の江田勇亮騎手に白羽の矢が立った。彼も3kg減で障害に乗れる騎手であった。 しかし、彼はこのレースの1週前、運命のいたずらか、騎乗停止になってしまった。そして、ポレールに乗る予定の3kg減騎手がいなくなった。その時今村騎手は、何も知らず福島にいた。

第三章   最後のピンチヒッター

 中山大障害を最高の状態に持っていくために使う代打(3kg減で乗れる障害騎手)は、もう板倉騎手か今村騎手の2人しか残っていなかった。そして陣営の選択したのは今村騎手だった。 福島に滞在していた今村騎手も、障害最強馬の騎乗依頼とあっては、福島での騎乗をキャンセルするぐらいどうってことはなかった。今村騎手にとって、これだけの「名馬」に騎乗することはめったにないことで、 これまでの騎乗馬とは明らかに「格」の違う馬だった。また、存在をアピールする絶好のチャンスでもあった。 そして日曜の5R、ポレールに騎乗する今村騎手は決戦の地・府中(東京競馬場)に現れた。

第四章   周囲の眼

 実績ナンバーワンのポレールであったが、64kgの斤量と直線のダートにはやはり不安材料である。そこへ持ってきて、これまでJRA通算たった1勝の騎手。 ましてや、障害戦では掲示板すら載ったことのない騎手である。知名度が高く、人気のあるポレールであっても、8番人気という低評価は妥当と言える。 周囲の眼は、ポレールには期待できるが今村騎手では期待ができない、という感じになっていたように思う。「馬は知っているが、乗っている騎手は知らない・・・。」 そう感じていた人も少なくないはずだ。そんな中、レースを迎える。

第五章   消極的な安全策

 スタートはまずまずでひと安心。位置取りがポイントであったが、中団に控えた。いつものポレールのレース展開であり、理想の形である。 だが、最近障害競走に騎乗していない今村騎手にとって、馬群の中での飛越には自信がなかったのか、外に出す安全策を取った。平地でも馬群を克服しきれていない今村騎手にとっては、 これしかできないのはもう分かっていたことであるが、消極的なレース振りに感じた。飛越については、最初の飛越は巧いと思える飛越だったが、なぜか飛越ごとに前との差が広がってしまい、 いつものポレールらしさが全くなかった。そして4つ目の生け垣障害で、悲劇が起こった。

第六章   いやじゃ〜〜〜!!

 ポレールは普通に飛んでいたように見えた。飛越後、騎手は消えていた。落馬してしまったのだ。今村騎手を振り落としたポレールは次の障害を豪快に飛越した。この日一番の飛越だった。 それからは外を逸走、気分良さそうに走っていた。この時ふと感じたことは、「馬も人を選ぶのか?」ということだ。今村騎手には失礼だが、これまでたくさんの騎手が乗ってきたポレールが、 「こんな下手な騎手、いやじゃ〜〜〜!!」と思っていたのかも知れない。

第七章   暗雲  −いつものことだから−

 ポレールに嫌われた今村騎手、無事そうで何よりだったが、ファンはこれをどう思ったか? 「いつものことだから仕方ないなあ・・・。」こう思われてしまっては終わりである。 これだけの馬を完走させられなかった今村騎手に障害競走での騎乗依頼をする人はおそらくもういないのではないか? そう思われてしまうレースだった。一世一代のチャンスは最悪の結果に終わってしまった。 これから今村騎手、どうなるん?

第八章   再び光明?

 ポレールでの落馬で今まで以上に株を落としてしまった今村騎手だったが、翌週の福島ではそれなりに騎乗があった。 そしてその翌週、以前乗っていたメモリーチャームが障害へ転向することとなり、なぜかまた乗せてもらえることとなった。ポレールのあの騎乗を見せられながら、 今村騎手に障害騎乗を依頼が来た。再び光明が見えたような気がした。

最終章   新たな旅立ち ・ 『フリー』

 メモリーチャームに騎乗し、最下位ながらも完走を果たした今村騎手。改めて障害騎乗に意欲が出たことだろう。そして今まで所属していた古川厩舎を飛び出し、「フリー」になることを決意した。 乗せてくれない厩舎にいるよりも、新たな出会いを求めて・・・。そして『フリー』・今村騎手の新たな挑戦が始まる。ファンとしての期待は大きい。騎手生活はまだ始まったばかり、 今村騎手はこれからなのだから!!


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