<提言1>
2006.3.14





 市町村合併特例法を受け、合併特例債というアメと地方交付税削減というムチをテコにして、全国で一斉に進められてきた平成の大合併は、2006年3月でほぼ一段落することとなる。
  合併前3000余の市町村を3分の1程度にという当初目標には達しなかったものの、最終的には、1999年3月末に3,232であった市町村が、2006年4月1日には1,820に減少する見込みだ。
  全国各地で合併協議会が立ち上げられ、協議過程において曲折を経ながらも合併にたどりついた市町村も数多く見られるが、さまざまな問題点がネックとなり破 綻したケースも決して少なくない。また、全国各地での合併へのプロセスにおいては、悲喜こもごものエピソードも聞かれた。
  合併が実現した市町村の中には、東京都に匹敵する面積を有する自治体や他の市町村が間に介在する飛び地合併、さらには都道府県の境界を変更する越県合併などユニークな合併もいくつか見られる。
  全国各地での合併を振り返ってみると都道府県間に大きな温度差があったことが分かる。
  市町村数の減少率で見ても広島県や愛媛県が70%以上の減少率であるのに対して、大阪府は1市1町による堺市の合併のみ、神奈川県は1市2町による相模原市の合併のみである。
  今回の合併では市が大きく増加し、町村が激減した。特に村の減少数が大きく、三重・滋賀など11県で村が消滅した。傾向として、合併の促進度は西高東低の 色彩が強い。昭和の大合併の積み残しが多かったのか、あるいは県域面積の割に小規模町村が多かったのか、理由は定かではない。
  一方で、合併の大きなうねりの狭間で、徹底したコスト削減を行ったり、恵まれた税財源や観光資源を生かして、自主独立を守っている市町村も全国には数多く 見られる。こうした市町村では、ある意味で地域のアイデンティティーが守られたとも言える。
  また、今回の大合併では過渡的な現象ともいえるが、法務局や警察署の守備範囲、さらには電話の市外局番などで、合併後の市(町)エリアとの不整合が生じて いる。市町村行政においても一部事務組合を構成するパートナー関係との不一致が出ている地域もある。
  今後は、財政基盤の強化、職員の専門性向上による行政サービスの充実や住民負担の軽減などの合併効果が期待される反面、合併前の市町村から継承した類似施 設、重複施設の解消や行政システムの整合性・統一性の実現など都市行政に求められる課題も多い。編入合併などのケースでは、ミニ一極集中による周辺地域の 空洞化も懸念される。どうしても合併が無理な場合は、合併しなくても行政の広域化が可能な広域連合や一部事務組合など緩やかな統合も選択肢に入れるべきで あろう。
  今後、合併に至らなかった市町村においても行財政改革促進の一環として新たな合併特例法により、合併協議会復活の動きが出てくることも予測されるが、ここ へきてさらにドラスティックな自治体再編成の動きとして道州制が官民双方で、検討されている。
  既に経済活動、生活圏の側面では、都道府県のボーダーがなくなっている地域も多く、この意味でも道州制は日本の将来のあるべき姿を描くうえで避けて通れない重要テーマともいえる。
  2006年2月に地方制度調査会から出された3つの区割り案は、生活圏や交通アクセス、現行の国の出先機関の管轄エリア、区割り後の人口・面積・経済力な どのバランスから、それぞれ検討されたものと思われるが、いずれの案も道州の境に位置する一部の県では、県域を割らない限り生活圏・交通アクセスから見て 不合理が生じる恐れもある。
  なお、道州制の議論では、先に「区割りありき」ではなく「三位一体」を始めとして議論が重ねられてきた中央省庁の権限委譲を前提とした地方分権のあり方が 問われるのではないか。そうした意味で「区割り」等の具体策の検討は、課税自主権、立法権など地方への権限委譲のあり方を明確にしてからでも遅くはないと 思われる。
  現行の47都道府県が本当に多すぎるのかという点とともにアメリカ型やドイツ型の連邦制を目指して、今までの「地方自治体」から「州政府」に移行させるのかという点が課題になるのではないか。
  また、道州制によって今以上に地域格差を拡大したり、新たな州内格差を生じさせてはならない。
核となる政令指定都市やいわゆる大規模県への極端な機能集中にならないスキームを視野に入れるべきであろう。いずれにしろ単なる「都道府県の合併」ではな く、地方分権の本来の目的である住民の身近なところでの意思決定や政策立案が可能な住民参加型の行政体系を構築するためにも国民全体の意思を問うことが求 められる。

都道府県

合併前

合併後

変動率

市町
村数

直前の
総人口

市町村の
平均人口

市町村数

直後の
総人口

市町村の
平均人口

市町村数
()

市町村の
平均人口
()

愛知

88

6,998,027

79,523

64

7,062,762

110,356

27.3

38.8

岐阜

99

2,109,185

21,305

42

2,106,293

50,150

57.6

135.4

三重

69

1,858,114

26,929

29

1,858,026

64,070

58.0

137.9

神奈川

37

8,546,857

230,996

35

8,644,031

246,972

5.4

6.9

広島

86

2,870,542

33,378

23

2,868,251

124,707

73.3

273.6

※各県により市町村合併の開始・完了時期が異なるため、便宜上直前人口は2003年3月末、直後人口は2005年3月末現在のいずれも総務省発表の人口動態によった


<提言2>
2006.3.14





 モータリゼーションの進展に伴い、地方では鉄 道需要が年々減少し、運転本数削減や料金値上げ、そしてさらなる利用者減少という悪循環が繰返され廃線になるケースが数多く見られる。また、バス路線も経 営悪化により廃止されるケースが相次いでいる。廃線やバス路線の廃止は、まさに高齢者や通学者など交通弱者を直撃することになる。ただこうした厳しい交通 環境の下においても一部の地域では、鉄道復権に向けた積極的施策も実行に移されている。

(1) 島根県では、県内唯一の私鉄に対し国の補助制度でカバーしきれない部分に、公的支援策を積極的に展開し、ランニングコストまで踏み込んだ助成を行ってい る。さらに集客力のある公共施設・観光施設をできるだけ鉄道沿線に立地させ、鉄道側もそれに応えて駅を新設するという相互の協力関係が生まれている。た だ、こうした方策は地方によって住民・行政の意識にかなりの温度差があることから全国で同様に適用できるかどうかが問題となる。
 
(2) 岡山市では、住民団体の積極的な路面電車保存運動を背景に鉄道会社でもLRT(次世代路面電車)の導入など利用促進施策を展開している。この会社は長年に 亘って黒字経営を維持していることでも知られ、さらなる路線延伸の動きも見られるほどである。路面電車については、豊橋市での駅構内への乗入れなど全国的 に追い風が吹いており、全国の事業者によるLRV(次世代路面電車車両)共同購入によるコスト削減策も話題になっているという。
 
(3) また、ここ数年、各地で相次ぐ廃線の危機に対して、三重の北勢線、富山の万葉線・富山港線、福井のえちぜん鉄道などで思い切った公的支援や営業譲渡・三セ ク化によって鉄道が守られるというニュースが大きく報道された。
 
  地方では、幹線道路を含め、まだまだ道路整備水準が低いという理由から「道路財源を地方へ」という住民ニーズが根強くある。高速道路について、さらなる建設の是非が議論されているのも、この問題と共通しているといえる。
また、危険と隣り合わせで崖地を走る道路や災害・救急時に十分な輸送機能を果せない地域を抱えた地方では、道路特定財源のニーズはまだまだ多い。
  一方で潤沢な道路特定財源の多面的活用については国政の場でも従来から活発に議論されているが、2003年度からは都市交通の主役である地下鉄建設費への 投入が始まり漸く風穴が開いた。今や成人の大半がドライバーでかつ皆がいずれ高齢化してマイカーから離れることや各家庭に通学者等の子弟をもつことを前提 に考えれば、道路特定財源を地方鉄道助成に投入することは、受益者負担の原則と必ずしも矛盾しないといえるだろう。一足飛びにヨーロッパ並みに運営費まで 踏み込んだ福祉の一環としての補助制度の実現に至るには、もう少し国民的コンセンサスが必要だが、徐々にその方向に近づける施策も各都市で打ち出されつつ ある。また、地方の場合は首都圏のように新線建設や連続立体交差化・複々線化などの巨額投資をしなくても身の丈に合った少額の投資、公的支援で公共交通を 復権させることが可能だともいえる。


<提言3>
2006.7.1





 「官から民へ」「チ-プガバ-ンメントの実現」という政策転換の流れの中で、国有施設の民営化・独立行政法人移管と軌を一にするように、地方自治体の保有する「公の施設」について新たに「指定管理者制度」が導入されることとなった。
改正地方自治法が施行された2003年9月2日から猶予期間の3年を経過する2006年9月1日までには、全国大部分の自治体で、公の施設について従来の 管理委託方式が指定管理者制度に切替わることになる。(一部は、直営方式に戻すこともあり得る)

1.各地における運用の実状とその問題点
 指定管理者制度の導入を迫られている各自治体においては、従来当該自治体が出資している外郭団体や地域の自治会などに管理委託してきた福祉施設・社会教 育施設・住宅などについて、当面は今までの管理受託者がそのまま指定管理者に移行する方法が一般的になりそうだ。また、指定管理者の選定にあたり、ハード 面(維持管理)については、専門的ノウハウを有する全国ネットの組織に委ね、イベントの企画などソフト面について、地域に精通したNPOと協力して、両者 の長所を生かす手法をとっているケースも見られる。名古屋市が旧川上貞奴邸を橦木町に移築し「文化のみち二葉館」として再生させた施設などは、その一例で ある。
 また、武家屋敷と大正建築が混在する古い街並みを生かして、市が建築遺産の保存・活用に力を入れる「文化のみち」エリアには、観光名所として知られる徳 川園がある。ここでは市の管理する有料庭園・文庫と民営施設である美術館を官・民それぞれが区分して管理しつつ、入場料について両者をセット化した料金も 設定している。両者が公園内で一体化し、長年に亘って協力関係を保ってきた施設だけに可能な方法だ。
 こうした施設では、歴史的経緯や施設の特殊性からいってもそのほうが望ましいといえよう。また、全国の各自治体では、指定管理者の選定にあたって公募に よるべきか否か、公募による場合の選定基準については、どのように透明性・機会均等化を図っていくかについて、苦慮するケースが見られる。
 公募によらない場合は、施設の特殊性や専門的職員の必要性などを明らかにして指定管理者としての明確な資格要件を定めるべきであろう。また、指定期間 は、一般に3年・4年という比較的短期間に限定される。そのため期間更新時にその都度指定管理者が入れ替わることも予測される。業務の継続性が保たれな い、培ったノウハウを生かせない、スタッフの雇用が不安定になるといった問題が生じかねない。

2.制度を有効に活用するためには
 公の施設のなかでも道路・河川など、その管理範囲が巨大で、行政庁に監督処分権限や強い許認可権が与えられるような施設は、厳しい安全管理が求められ る。このような施設は、事実行為のみの管理委託は可能だとしても、基本的に指定管理者制度導入にはなじまないといえよう。一方、都市公園やスポーツ施設な ど、地域住民の福祉に供される施設などでは、導入が一気に促進される可能性もある。
 公の施設は、もともと住民の福祉増進という目的の実現が図られることが大前提である。公の施設である以上、有料公園(庭園)・美術館・博物館などについ ては、民営施設(テーマパーク)並みの料金設定は困難である。また、行政コストの削減・効率的運営の名の下に公の施設の生命ともいえる公共サービスの低下 をもたらしてしまっては、意味がない。
美術館・水族館・博物館・文化センターなどには、民間の類似施設と競合する施設も数多くある。この場合、民営施設と競争して徒に収益向上・入場者拡大志向に走り、本来の目的を失ってはならない。
 指定管理者導入後の実績評価を行うにあたっても、コスト削減効果、入場者数など、分かり易い数値だけではなく、施設のコンセプトが十分生かされている か、真の住民サービスが提供されているかなど多目的な評価が必要といえよう。その意味では、評価委員の選任にあたって、できる限り専門的価値判断ができ、 客観的に評価できる立場の人材を登用すべきである。
既に指定管理者制度を実行に移した自治体に対する住民の評価は、さまざまである。
接客サービスが向上し、手際の良い業務運営がなされるようになったという評価がある一方で、専門知識に欠け、利用者ニーズに応えられないという批判もある ようだ。公民館など地域密着型の施設に対して、地域住民がもともとなじんでいる団体が管理運営する方式は、概ね好評のようである。
 地域の中核をなす中央図書館や明確なコンセプトを有する美術館・博物館などでは、十分なリファレンス能力をもった司書・学芸員の配置や施設の特性を十分 生かしたサービスが求められるため、充実した専門スタッフ・すぐれた運営能力を備えた団体が指定管理者として選任できない限りは、むしろ直営の方が望まし いともいえるだろう。また、今後こうしたアウトソーシングを定着させていくためには、次のような課題も残されている。

(1) 指定管理期間をどう設定していくか
 効率的運営とともに施設としてのサービス水準を低下させないためには、それぞれの施設の効用を最大限発揮することが求められる。施設の特色に応じた期間設定には、慎重を要する。

(2) 委託料と料金収入のバランスをどうとるか
 指定管理者制度には、もともと行政コスト削減の目的もある。管理経費としての委託料をどの程度に設定すべきか、料金収入を管理・運営費に充当するとした 場合のウェイトは、どの程度かの判断基準を定める必要がある。

(3) 責任の所在を明確化できるか
 公の施設である以上、その設置・管理に係る責任が原則として地方公共団体にあることはいうまでもない。ただ、今後指定管理者による管理運営にあたって不 測の事故やトラブルが発生した場合の損害賠償責任の帰属等に係る詳細な協定も必要であろう。

 いずれにしろ、指定管理者制度は、まだ緒についたばかりだ。本格的な制度運用が始まる2006年秋以降の各地での動きに注目していきたい。



( 碧海5市統合は実現し得るか )
<提言4>
2006.7.1






1. 地元経済界・住民主導のボトムアップ型合併運動
 愛知県西三河地方に位置する刈谷・安城・知立・高浜・碧南の5市は、従来から旧碧海郡を母体とする自治体として相互につながりの深い都市でもあったこと から、21世紀に向けた魅力と活力にあふれた地域づくりを目指して、早くから合併への動きが盛り上がっていた。
 特筆できるのは、もともと市町村合併特例法によるトップダウン型の合併推進ではなく、平成6年における碧海サミット(5市の商工会議所・商工会で構成) による「碧海市構想検討委員会」をきっかけに推進の動きが始まったことである。
また、この動きをサポートするように平成13年には、青年会議所を中心とした住民主導の組織が「まちづくりプロジェクト碧海」を立上げるなど、合併推進運 動がさらに展開されていった。いわゆる平成の大合併とは、様相の異なる動きとして注目されたが結果的に5市の足並みが揃わず、任意合併協議会は設置されな いこととなり合併は実現できなかった。

2. 実現すれば県内第2の都市に
 かつての5市は、それぞれが特色を有し、城下町の刈谷、東海道宿場町の知立、農業先進都市の安城、三州瓦の高浜、衣浦湾に面して、農業・漁業・商工業の バランスのとれた碧南と、いずれも独特のイメージをもっていたが、近年は自動車関連を中心に大規模工場が刈谷・安城の内陸地域と碧南・高浜の衣浦臨海部に 立地し、全国でも有数の勢いのある地域として発展してきている。そのため合併が実現すれば、製造品出荷額も5市を合わせて、3兆9000億円強(H15工 業統計)と豊田市に次ぐ県内2位、人口も488,317人(H17.1.1現在)で、名古屋市に次ぐ県内2位になる。しかもいずれも人口増を続けている都 市の集合体となる訳で、いわば強者連合としての様相が明確になってくる。

3. 新幹線駅を地域の玄関に
 各種データから見てくると碧海5市は、西三河の中でも地理的条件、産業構造などを総合して、比較的恵まれた都市構造を有するといえる。地域内の交通ネッ トワークのほか、名古屋や東三河地方へのアクセスも良好であり、とりわけ域内にある新幹線三河安城駅は、合併が実現すれば、域内の玄関としての機能が求め られるであろう。
 現状の三河安城駅は、こだまのみ停車で利用客も少なくJR在来線との接続以外に他の交通機関へのアクセスはない。そのせいか駅前空間には、ホテル・マン ション・駐車場ビルなどが林立しているものの、新幹線駅前にふさわしい賑わいは見られない。請願駅として誘致した地元期待の駅だけにその有効活用が求めら れる。駅周辺の土地区画整理事業完了時期を迎え、各種施設整備が進みつつある今、市内循環コミュニティバスだけでなく5市が協力して広域的なバス路線整備 を図る必要がある。
 また、名鉄西尾線とつながる新安城駅方面などの拠点地区とは、フリークエンシーの高いバス路線で接続することも課題になるだろう。ロケーションの良さを 生かした外来型医療施設・保育所・多目的な市民交流施設も賑わい創出に有効だ。さらに駅徒歩圏のゾーニングを思い切って見直し、居住人口の拡大を図るとと もに長期的には核(コア)としてのビジネス機能誘致も期待される。

4. 道州制を見据えた政令指定都市構想も視野に
 碧海5市は、合併しても面積は201.66㎞2 、大都市名古屋の半分強となり、さして広大ではない。もともと人口密度の高い地域で平坦地が大部分を占 め行政効率はよい。しかも元気のよい製造業を背景にして、雇用の場にも恵まれ財政力指数も高い。
 こうした好条件を踏まえて、隣接する他都市も含めた合併により、名古屋への対抗軸を目指す雄大な構想もある。当面は、豊田・豊橋・岡崎に続く県内第 4(西三河では3番目)の中核市を目指しているが、一歩進んで人口70万を超える政令指定都市が誕生すれば、今検討が進められている道州制の中で、その存 在意義は、より大きなものになると期待される。
 5市合併構想は、立ち消えとなったが、今後道州制を見据えて再燃する可能性もないとはいえない。ただ、合併を実現するためには、そのメリット・デメリッ トについて地域住民が十分な議論をし尽くして、コンセンサスを得ることが大前提となることはいうまでもない。
 平成の大合併は、大部分が深刻な財政赤字にあえぐ町村を隣接の核都市が救済したり、いわゆる弱小町村を強化するための合同という図式であった。それに対 し碧海5市はいずれも財政力指数が1を超え、人口増加を続ける豊かな都市である。その余裕もあって、今のところ住民・行政ともに合併への熱は冷めている。
 平成大合併が一段落した今、あえて拙速で合併に走る必要はなく、明確なビジョンを定め機が熟してからでも遅くはないともいえる。


<提言5>
2006.9.1






1. 空洞化の続く地方商店街の惨状
 景気回復、雇用の拡大等、わが国の経済に少しずつ明るさが見えつつある一方で、地域経済に視点を移すと格差の現実が浮彫りになってくる。
 バブル崩壊後に進められた不良債権処理・金融緩和施策の下で、積極的なファンドの流入、開発投資によって勢いづく首都圏や政令指定都市など大都市の活発 な動きと対極をなすように地方の中小都市の中心商業地では、今なお核店舗の撤退、ショッピングストリートにおける店舗閉鎖、シャッター通り化現象が相次い でおり、大きな社会問題となっている。
 とりわけ地場産業の低迷・雇用能力の低下とともに人口流出に悩む地方に、この現象はより顕著に表れている。
 地方都市では、郊外型大型S.C.の攻勢にあって地元商店街が衰退するケースが一般的に見られるが、地域によっては近接する大都市の高度商業地にも顧客 を奪われ、挟み撃ちに会っている商業地も見られる。こうした地方では、商店街に立地していた大型核店舗撤退の後、跡地が埋まらずポッカリと穴が空いたよう に無惨な姿をさらしているところも多い。この影響は地価にも如実に表れている。
  2006年の地価公示によれば、大都市圏を中心に年間地価上昇率2割台~3割台を示す地点が数多く見られるのに対し、北海道・東北・南九州などの地方で は、県庁所在都市を含めた人口10万~30万台規模の中都市で依然として10%台~20%台の年間下落を示す商業地も数多く見られる。
 また、これら中都市の中には商業地全体の下落幅が、前年より拡大した都市もいくつかある。
 いわば、商業地の二極化現象が鮮明に表れているともいえる。

2. 迷走するまちづくり三法
  経済産業省(中小企業庁)は、2006年5月に「がんばる商店街77選」を公表し、全国各地の商店街で、アイデアや工夫をこらして活性化やにぎわい創 出に努力している商店街を紹介するとともに、継続して、さまざまな補助制度・サポート制度を推進しているが、今のところ目に見えた再生効果が表れた地域は 極めて少ない。この厳しい現状の下で、これまでに打ち出されたまちづくり施策は果たして効を奏してきたといえるだろうか。
  1998年にそれまでの各省庁ごとの垣根を取払う形で、法制化された中心市街地活性化法は、ハード面とソフト面を融合させてトータルな商店街支援施策を打 ち出すとともに、市町村が主体となってエリアを定め活性化の基本計画を作成する手法を実現し、その意味では画期的であった。
  TMOも全国各地で商工会議所や第三セクターによって立ち上げられ、改正都市計画法との相乗効果で、それなりの成果は得られた。一方で、この制度を背景に しつつ規制緩和の一環として従来の大店法が「大店立地法」に改められ、大型S.C.が、どこでも比較的容易に進出できる道が開かれたことにより郊外店の大 量進出の流れは一層加速されてしまった。その結果、地域によっては、駅前などの中心商店街は懐滅的ともいえる打撃を受け、続々と進出した郊外型大型店同士 の過当競争の様相すら見られるようになった。悲鳴ともいえるような地方の声が全国各地に広がる中で、改正まちづくり三法は、施行後僅か10年未満で再度の 見直しを迫られることとなった。
  こうした要請を受け2006年5月末に改正都市計画法が、同年6月初めには改正中心市街地活性化法が公布され、新たな施策が展開されることとなった。両改正法の施行が出そろうのは、2007年11月末頃までの予定である。
  今回の法改正は、大店立地法については手をつけず、中心市街地活性化法(題名も変更)と都市計画法(それに付随する建築基準法)の改正だけにとどまった が、平成の大合併という市町村行政区域のドラスティックな異動があつた直後だけに注目される。

3. 秩序ある都市の形成を目指して
 新たに施行される改正法では、特に地方公共団体によるゾーニングの適否が鍵になりそうだ。

(1) 改正都市計画法のポイント
  〈大型店進出規制エリアの拡大〉
① 従来の住居系用途地域5種のほか、第2種住居・準住居・工業の3地域も原則として規制
② 市街化調整区域には、大規模開発も含め原則として規制
③ 非線引都市計画区域・準都市計画区域で原則として規制

 〈準都市計画区域の指定権者〉
  市町村から都道府県へ移管

(2) 改正中心市街地活性化法のポイント
① 内閣に「中心市街地活性化本部」を設置 
  市町村主体の基本計画を尊重しつつ、国が積極的にその認定を行うことにより、意欲ある市町村への重点支援をする。

② 中心市街地に核を誘導 
  都道府県(指定都市)が、大店立地法の規制緩和特例地域を指定することにより、コアとしての大型店舗を誘導できるエリアを従来の構造改革特区のほか全国各地の市町村中心市街地にまで拡大する。

 上記の改正法が目指す方向への街づくりの転換は、果たして可能だろうか。過去の経緯を踏まえて試行錯誤を重ねてきた中心市街地問題は、今回の改正法でも依然として、次のような懸念が残る。

(1) 大店立地法は何ら改正されていない 
  規制緩和の流れの中で、大型店の立地を促進する形となった大店立地法の規定が存続したままで、中心市街地内についての手続きのみ緩和されたとして十分な効果が期待できるかどうか

(2) 準都市計画区域指定の可能性 
  都市計画法の適用が除外され、高速道路インター付近や幹線道路沿いに無秩序に拡大した商業エリアに規制をかけていくための制度として準都市計画区域の指定がある。
  2000年の法改正で市町村が指定できるようになって6年経過した現在でも、全国でこの制度を適用した事例はごく僅か(群馬県前橋市〈旧宮城村〉で稀少な 事例がある)。そのためか分権の流れからは逆行する形となるが、今回の法改正では指定権が都道府県に移管された。

(3) 準工業地域が抜け穴にならないか 
  今回の改正では、特別用途地区制度の活用を前提に準工業地域は規制対象から外した形となっているが「準工」のゾーンは、全国的にも郊外の幹線道路沿いなどに幅広く指定されている実態がある。
  今後、市町村が特別用途地区指定などで歯止めをかけない限り郊外型大型店は、このゾーンに集中的に進出する可能性もあるといえる。

(4) 1万㎡未満での進出が続出しないか 
  旧大店法では、もともと3000㎡以上(政令指定都市では6000㎡以上)が、第1種大規模小売店舗として定義され規制の対象とされていた。
  中小店舗にとっては、10000㎡を下回ってもやはり脅威であることに変わりはないのではないか。既に一部の道府県では国の制度の施行日より前に出店規制 の対象面積を条例で引下げて規制強化を図っているところが出ている。
  大店立地法の改正が実現しなかったことで、こうした独自制度で新制度のより効果的運用を図る自治体も増えてきそうだ。一方で、来年末の法施行前の駆け込み出店の動きも見られる。
  郊外への大型ショッピングセンターの立地は、もともとモータリゼーションの進展とともに進んできた。比較的低地価で、用地取得が容易であるとか、産業構造 の転換に伴い撤退した工場の跡地などが活用できるなど、大規模画地の用途転換・有効活用が動機になっているケースが多い。その意味では、官公庁の庁舎や ミュージアム・病院・大学などの郊外移転と軌を一にしている点も無視できない。もちろんこうした施設が郊外に立地することにより、郊外の地域活性化に役 立っている側面も否定できない事実である。ただ、地域の消費購買力をはるかに超えた進出の結果、新たに競争に敗れた郊外型商業地が空洞化する現象を引き起 こす恐れはないだろうか。

 今後の中心市街地空洞化問題の抜本的解決策としては、ソフト面の各種施策とともにハード面では過去の反省に立って、次のような方策が必要といえる。

イ、集客施設の都心一体化
  駅前などの再開発事業で生み出される大規模画地や核店舗の撤退跡地を活用して集客力のある大規模公共施設・ミュージアム・医療・福祉施設を都心に呼び戻す とともにビジネス機能・商業施設との一体化・近接化を図る。

ロ、マイカーを利用しない客の誘導
  今、空洞化に悩む地方の中心都市内の都心市街地は、もともと過去の歴史遺産や文化教育施設のストックを豊富に有し、D.I.D(人口集中地区)も広く分布 しており公共交通機関による移動になじむ地域環境にある。
  こうした地域は、大規模駐車場を備えた郊外型S.C.とは異なる形、言い換えればクルマで移動できない人、クルマを使わない人を呼び込む空間である必要が ある。エネルギー効率に優れ、環境負荷の小さい路面電車(LRT)の促進とともに定時性・高速性に優れた高架式新交通システムの導入に対しても思い切った 投資ができるような国の補助制度を充実する。

ハ、ゆとりある歩行者空間の創出
  中心市街地内には、思い切ったトランジットモールなどを整備するとともに、歩車道分離・夜間照明などの交通安全施策を促進し、歩行者や自転車が昼夜をとわ ず安心して移動できる空間を創り出す。業務用車両を除くマイカーの市街地への流入をできる限り規制するとともに、地域住民にとってショッピング・医療・福 祉・アミューズメント施設を短時間に利用できる環境づくりが望まれる。
  その意味では、2006年に始まった路上駐車の規制強化は追い風になるかもしれない。

 高齢化社会を目前に控えバランスのとれた都市の発展、真の住民福祉を実現するためにも官民ともに今一度立ち止まって考える時が来たといえよう。


<提言6>
2006.9.1






1. 制度導入の背景
 わが国の高齢化が異常ともいえるハイスピードで進む中、新たに措置制度から契約方式へ、公費負担から社会保険方式への転換を目指して、2000年4月新たに介護保険制度が導入された。
  わが国にとって、新たな社会保険制度の創設は、実に53年ぶりのことである。この背景には、日本人の平均寿命の飛躍的な伸びとともに少子化により高齢者を 支える人口が減少したことや年々増大する医療・福祉コストに対して、それぞれの医療保険制度や公的福祉財源で対応しきれなくなった事情がある。また、ライ フスタイルの変化、核家族化の進展に伴い家族内での相互扶助システムが徐々に崩壊しつつあることも背景として考えられる。
  諸外国の先例を見ると高齢化を見据えて1994年、いち早く介護保険制度を創設したドイツは全国民を対象とした制度となっており、保険料負担者について基 本的に年齢の下限はない。一方、福祉大国といわれるスウェーデンやイギリス・フランスなどでは、全額公費による介護制度がとられている。
  わが国の制度は、ドイツをモデルにしつつ保険料負担者を40歳以上とした。財源も一部保険、一部公費負担の形で、いわばドイツ・スウェーデンの折喪型だ。 サービス面では、慢性期医療への給付やケアマネージメント導入といったドイツの制度にはないサービスも含まれており単純な比較はできない。

2. 高齢化速度の地域格差
 2006年版高齢社会白書(内閣府)によれば、高齢化率(全人口に対する65歳以上の比率)が上昇する速度は、都道府県によって、やや異なるようである。
  また、総務省が発表した2006年3月31日現在の人口動態によれば、老年人口比率は、島根27.12%、秋田26.79%に対し沖縄15.88%、千葉 16.66%となっている。生産年齢人口の流出が多い県が高率、出生率や流入人口の多い県が低率という傾向が見られる、なかには低出生率・流出人口超過の 二重苦にあえぐ自治体もある。これらをさらに市町村別に細分すると同一都道府県内でも大きな格差が見られ、郡部の地域では30%台の町村も多い。なかには 既に40%超に達しているところもある。2025年における予測では、全国で更に高齢化が進み、平均でも3割弱になるといわれている。
  高齢化が深刻な、いわゆる過疎地域の中には、いち早く危機感を抱き介護保険制度を先取りしている自治体もある。岩手県の藤沢町は、平成初期に実施された 「ふるさと創生事業」の1億円を福祉に振り向け、在宅福祉サービスを行うセンターの設立により住民自治の福祉を実現するとともに、医療・保健・福祉の一元 化によるサービスをスタートさせるなど、全国に先駆けた取組みを行っている。また、同町は、平成大合併の嵐の中で、隣接市等の合併協議会参加を見送り、孤 高を守っている町でもある。

3. 将来に不安を残す財源
 介護保険制度は、当初の予測を上回る介護需要のため、施行後5年を経て早くも収支バランスが崩れ、見直しを迫られることとなった。2005年10月の改 正では、いわゆる「ホテルコスト」とされる居住費・食費が保険給付の対象から外され利用者負担となった。
  また、2006年4月からは介護等級の見直しにより増加人数の著しい要介護1の区分を要支援2と要介護1に分類し、介護給付から予防給付へシフトする層を 増加させた。いずれも年々増加する財政負担の解消のため導入された制度だが、ホテルコストの自己負担化は、在宅サービスとの不公平感の解消という意味も有 する。制度改正は、利用者側には負担増、施設側には新たな運営上の不安を生ずることとなったが、制度導入後僅か6年で改正せざるを得なくなった介護保険制 度については、今後も財政面での不安は残る。さらなる介護需要の増大に向けては、保険料の増額や保険料負担者の年齢引き下げも考えられる。
  また、介護サービスの利用者負担率を等級に応じて拡大する必要に迫られる可能性もある。

4. ふくれあがる介護ビジネス
  民間活力を導入してスタートした介護保険制度は、従来からの行政による社会福祉、民間公益団体による慈善事業とは異なるビジネスの方向へのシフトも目指した。
  民間参入を認めた新制度導入により、介護付有料老人ホームが急増するとともに、在宅ケアサービスでは、異業種からの進出も目覚しく多様化が進んだ。介護事 業者情報によれば、既に膨大なサービス事業者が登録され、居宅療養管理指導や訪問看護など多面的なサービスを展開している。医療法人が経営する介護療養型 医療施設も従来の病院に併設する形を中心に急速に増加した。これも介護保険がもたらしたニュービジネスといえる。
  今後は在宅サービスなどで、各業界からの参入により過当競争に陥ることも懸念される。また、対応する施設にケアマネージャーやホームヘルパーなどハードな 勤務を余儀なくされる人材を十分確保できるかどうかも鍵となろう。加速する高齢化社会に適切に対応するためには、非正規雇用労働者・外国人労働者も視野に 入れた幅広い人材育成が求められる。

5. 充実した老後生活への展望
  ハイコストのデラックスな有料老人ホームなどの供給増が目立つ中で、本来の目的でもあるセーフティーネットとしての特別養護老人ホームの充足は、果たして 十分といえるだろうか。また、老人保健施設の現状は、特別養護老人ホームの入居待ちに利用されることも多く、本来の役割が十分効果せない状況にある。今後 は、在宅サービスの充実や家庭復帰のためのリハビリテーション等の促進とともに特別養護老人ホームの増設等、多面的対策が望まれる。
  福祉先進都市といわれる愛知県高浜市では、高齢者福祉に特に力点をおいた行政を進め、介護保険の対象にならない高齢者に対し「給食」「短期宿泊」「宅老所 の設置」など多様な事業を展開している。また、愛知県知多市に処を構えるNPO法人は、知多半島を中心に他の団体とのネットワークを広げ、有効なパート ナーシップを築いている。ここでは、広く一般市民を対象に月例の施設見学バスツァーや人材育成の研修事業も展開している。
  今後の介護福祉行政を有効に進めていくためには、次の三点について抜本的な対策が求められるといえるのではないか。
 
(1) 高齢化のタイムラグ・地域格差に対応した施策の推進
  下表の都道府県別比較で分かるように、首都圏や愛知など生産年齢人口の流入が多く、人口増加を続ける地域では、今のところ高齢化率は比較的低い。ただ、今 後出生率の低下、少子化により早晩他の地域と同様の問題にぶつかる。
  同世代の入居者が、大量に高齢化する大規模団地では、首都圏などでも既に高齢化が一気に進んだエリアも見られる。こうした地域格差、タイムラグを見据えて 長期的にバランスのとれたサービスと負担の調整を図る必要があろう。

(2) ケアマネージャーの待遇改善
  長時間勤務・苦情・トラブルへの対応など、肉体的・精神的苦労が多いケアマネージャーについては、今なお低給与・過酷な勤務条件のため慢性的に人材の供給 が需要に追いつかない状況にある。介護福祉の中核をなす職種の待遇改善と人材の養成は、急務ともいえるのではないか。

(3) 保健・医療・福祉の連携
  今回の見直しで、在宅ケアを重視した予防給付のウェイトが高まった。その意味では、従来ともすれば別々の行政として進められてきた福祉行政と医療・保健行 政を密接にリンクさせるとともに建物を一体化するなど、抜本的な対応が必要だ。現場の介護施設では、医療・保健・福祉は既に一体化の方向に進みつつある。 今後は制度の実施主体である保健所・福祉事務所等についても建物の一体化や所管エリアの明確化・業務の一元化により分かり易い窓口で効果的なサービス提供 を実現することが求められる。

    (2006.3.31現在)

都道府県名

A2006年
人口(人)

B2005年
人口(人)

増減数
A-B(人)

増減率
A-B/B
(%)

老年人口
比率(%)

東京

12,273,376

12,183,509

89,867

0.74

18.55

愛知

7,106,585

7,072,191

34,394

0.49

17.70

神奈川

8,693,373

8,652,841

40,532

0.47

17.23

秋田

1,156,356

1,166,634

▲10,274

▲0.88

26.79

青森

1,460,144

1,472,631

▲12,487

▲0.85

22.54

高知

799,121

805,621

▲6,500

▲0.81

25.76

 A・Bは、いずれも3月31日現在(老年人口は、65歳以上の人口)
 都道府県名は、人口増加率1~3位、人口減少率1~3位の都県をそれぞれ掲げた。

?

<提言7>
2007.6.1





一億総中流社会」と呼ばれた1970~80年代 から時を経て、近年は「格差社会」という用語が声高に叫ばれるようになった。そこには、高度成長と終身雇用により日本経済が拡大発展を続けた時代が既に過 去のものとなり、バブル崩壊の不況期に厳しい雇用の整理が行われたことが背景にある。
  一方で、資本主義社会、市場経済がグローバル化しつつある状況下で、格差はあって当然という見方もある。ただ、ここへきて格差問題が深刻化したのは、雇用 形態の変化や高齢化社会の進展、さらには資産格差・地域間格差などさまざまな側面で、格差の拡大・固定化が顕在化したためではないだろうか、国政の場にお いてもこの問題に対しては再チャレンジ推進施策など新たな取組みが始まりつつある。

1. 統計的に見た格差の実状
2006年版国民生活白書(内閣府)によれば、さまざまな調査指標によるジニ係数が発表されているが、家計の可処分所得ジニ係数では、バブル崩壊直後の1993年から2005年までに約12.7%上昇している。
2006年11月に総務省統計局が公表した2004年の全国消費実態調査による2人以上世帯の年間収入ジニ係数の推移を見ると5年毎に行われた過去4回の 調査で一貫して上昇カーブを描き、2004年には0.308に達している。なお、調査年に若干の相違があるが、国際比較可能なOECD採用による一世帯当 り世帯人員を勘案した年間可処分所得による比較では、比較対象国中のほぼ中くらいといったところだ。高福祉高負担で知られるスウェーデンはやはり数値が低 いが徐々に上がっている。各国がほぼ同様に上昇傾向なのに対し、フランスだけが1980年代から2000年までに低下しているのが注目される。一般的に、 ※ジニ係数が0.3を超えると格差があると認識されるようになるといわれている。 (下表参照)

表  主要国のジニ係数推移(カッコ内は各国の調査年)

国 名

1981~86

1987~91

1992~96

1997~99

2000~

米   国

0.335(86)

0.336(91)

0.355(94)

0.372(97)

0.368(2000)

フ ラ ン ス

0.298(84)

0.287(89)

0.288(94)


0.278(2000)

オーストラリア

0.292(85)

0.304(89)

0.311(95)


0.312(2003)

カ ナ ダ

0.284(81)

0.283(87)

0.285(94)

0.291(97)

0.302(2000)

ド イ ツ

0.249(84)

0.247(89)

0.261(94)


0.264(2000)

ベ ル ギ ー

0.227(85)

0.232(88)

0.224(92)

0.255(97)

0.277(2000)

スウェーデン

0.197(81)

0.218(87)

0.221(95)


0.252(2000)

日   本

0.252(84)

0.260(89)

0.265(94)

0.273(99)

0.278(2004)

※ ジニ係数
座標軸の横軸に世帯数累計、縦軸に所得累計をカウントしてグラフ化し、描かれたカーブ(ローレンツ曲線)と対角線で挟まれた部分の面積を基に所得の不平等度を表す数値(大きいほど格差大)

2. 二極化がもたらしたものとは
世界的潮流となった競争原理、市場経済の下で、わが国の伝統であった年功序列・終身雇用が徐々に崩壊し始め、特に不況下におけるリストラなども相まって、 雇用が不安定化する一方、ベンチャービジネスやマネーゲームなどで新しい富裕層も登場する結果を招いた。 雇用の実態を表す完全失業率(完全失業者の労働力人口に対する割合)は、1970年の1.1%以降、ほぼ一貫して上昇を続け、2002年には遂に5.4% となった。景気回復とともに2005年には4.4%に低下したが、70年代の数値にはほど遠い。 (内閣府発表の2006年版国民生活白書) また、厚生労働省の「厚生統計要覧」によれば、2005年度(1ヶ月平均)、わが国の生活保護・被保護実世帯数が、遂に100万の大台を越えたことが分 かった。被保護家庭にとっては、既に実施された「老齢加算」の廃止に続いて、「母子加算」の廃止が、さらに追い討ちをかける。 富裕層と貧困層の二極化がより鮮明になってきたことを統計上からも窺い知ることができる。また、わが国のジニ係数を年代別に見ると高齢になるほどより格差 が拡大することが分かる。リタイアエイジを迎え有職者と年金のみの生活者に分かれること、年金の支給水準に大きな格差があることも一因だろう。

3. 若年世代にも厳しい現実
ワーキングプアという用語が一般化するようになった。企業の雇用形態が様変わりし、正社員と混在して働く非正社員の占める割合が大きくなった。パートタイ マー、派遣社員や期間工(季節労働者)の場合、雇用が不安定であるとともに、年金・福利厚生の面で著しい不利益を受けることが多い。 また、現行制度の下で最低賃金以上の収入があっても年収で生活保護費を下回るケースが生じていることが問題となっており、これに対する新たな国の施策が迫 られるようになっている。また、特に15~34歳までの若年層で、フリーターあるいはニートと呼ばれる層が年々増加しているのも深刻な問題だ。 若年労働力人口に占めるフリーター比率は、「フリーター」の定義のしかたで少し異なるが、厚生労働省の定義によるデータでは、フリーターと呼ばれる人たち が2003年まで増加を続け217万人(約1割)に達した。(2003年から実数で若干減少傾向になってきている。) 就職氷河期を経験した世代がこの中に含まれており、人生のスタートラインでの格差が、そのまま固定化し、生涯賃金での格差につながっていく恐れもある。 こうした弊害をなくすためにも労働市場の流動化即ち中途採用の促進を含めた弾力的な雇用形態の拡大とともにパートタイマー・非正規雇用者を正規雇用者に登 用していく制度の充実が望まれる。いわばやり直しのきく社会への転換が求められる。その意味では2007年から公務員採用における年齢制限の引上げやパー ト労働法改正による正規社員登用拡大への流れが出てきていたことに注目したい。

4. 真に豊かさを実感できる社会とは
さまざまな格差の現状を見て、今わが国にとって求められるのは、誰もが等しくチャンスを得られる社会・若年層に夢を与えられる社会ではないだろうか。 教育の機会、就業の機会など、さまざまなチャンスが等しく与えられた後に、本人の能力や努力の差によって生ずる格差であれば、誰もが受忍できるであろう。 また、人生の仕上げの時期を迎えた高齢者にとっても医療・介護・福祉などの面で、最低限必要とされるサービスを享受できるしくみ、いわばセーフティーネッ トがない限り、豊かな社会とは決していえないだろう。そのためには、年金や税制、さらには公的扶助を含めた福祉施策の面で、所得が適正に再分配されるしく みが一層必要となってくると思われる。


<提言8>
2007.6.1





1、深刻化する地域格差
  格差の形態には、世代間・業種間・職種間あるいは企業規模の大小・雇用形態の差異など、さまざまな類型がある。これらは主として個人所得の側面で見受けら れるものだが、近年これとは別に地域間の格差が大きくクローズアップされてきている。具体的には都道府県間、さらには県域を越えたブロック間、あるいは市 町村間における生活格差を指すことが多い。各地域の産業構造や人口動態、雇用状況などが、そこに居住する住民の暮らし振りに格差をもたらしているとともに 自治体そのものの財政力格差を生んでいることが問題となっている。
 産業構造の転換が遅れたり、地場産業の停滞などの理由で、地域経済の不振に苦しんできた地方では観光事業や公共投資などに活路を求めてきた地域も多い。 特に公共事業は、地方に安定した雇用や消費を生み出すとともに地域経済を支える原動力となってきたが、ここへきてその大幅削減が地方の雇用のさらなる縮小 や企業倒産などにつながり、大きな衝撃を与えている。これを象徴するように2006年の都道府県別有効求人倍率では、愛知1.85、東京1.58に対し、 青森0.44、沖縄0.46という大きな格差が生じている。 (2006年の厚生労働省統計表)
 また、同じ厚労省の2007年3月高校新卒者・地域別求人倍率データでは、京浜4.84、東海2.44に対し南九州0.89、山陰0.97という数値 だ。こうした格差は、最終的に求職超過地域から求人超過地域への勤労者(新卒者)の移住という形での調整が進むと推定されるが、こうした実態がさらなる人 口の流出入につながっていくことになる。

2、都道府県間人口移動から見た地域格差
 2006年の都道府県間人口移動のデータを見ると、転入超過の上位には、首都圏の各都県や愛知などが名を連ね、転出超過の上位に北海道や九州・東北などの県が顔を出す。そこには求人倍率とリンクしたトレンドが鮮明に表れる。(表1参照)
 長年に亘って、首都圏と競い合い、東西二眼レフとまで呼ばれた近畿圏の中枢をなす大阪・京都がいずれも減少、兵庫が横ばいに近い微増傾向となっているのが気にかかるところだ。
 産業構造の転換、企業の大阪から東京への本社移転などの影響も出ているのではと推定できる。
 全般に東北、九州(福岡を除く)、中・四国からの流出が多く、首都圏や愛知などが、他県から流入する勤労者の受け皿となっている傾向を読みとることができる。
 また、この転出入人口は、各都道府県の10月1日現在の日本人人口に対する比率(総務省発表の住民基本台帳人口移動報告、2006年結果)で比較してみ ると自治体の規模が加味された数値となり、より鮮明になってくる。比率の順位は、転入超過が東京(0.73%)、愛知(0.29%)、神奈川 (0.25%)、滋賀・千葉両県が0.2%強、転出超過は、青森(-0.67%)、長崎(-0.66%)、秋田(-0.51%)といった順位で、実数とや や様相が異なる。地域内の主要産業が好調で、雇用に恵まれ、地域経済が活発な都県の人口増加が顕著に表れており、その意味では地域格差が象徴的な形で浮彫 りになってくる。この人口推移は、2000年国勢調査の頃から、ほぼ同様のトレンドになっている。

表1  転出入超過数上位の都道府県(転出超過はマイナス)

順 位

転入超過

転出超過

1

東 京

90,079

北海道

-18,386

2

神奈川

21,848

長 崎

-9,600

3

愛 知

20,999

青 森

-9,465

4

千 葉

12,398

福 島

-7,785

5

埼 玉

7,708

新 潟

-6,923

6

福 岡

3,122

鹿児島

-6,427

7

滋 賀

2,891

大 阪

-6,353

  • 2006年の年間移動数のうち、他都道府県からの転入者数から他都道府県への転出者数を引いた数字
  • 出典:住民基本台帳人口移動数報告、統計表第4表による(2007.4.26総務省)

3、人口の流出入がもたらす影響
 都道府県間に見られる一部地域への流入は、若年層を中心とする勤労者層の移動によるものが大きい。これにより、流出地域はさらに高齢化が加速し、さらな る自治体の財政支出増大と税収減につながる恐れがある。この問題は、市町村相互の関係で見た場合、さらに複雑な様相を見せる。財政力指数が1を超え、地方 交付税に依存しなくても財政運営のできる市町村は全国でも一握りにすぎない。合併を実現した自治体でも、依然として厳しい財政事情に苦しむところが多い。   山間部などの自治体では、既に高齢化率が4割を超え、税収減と医療・福祉コストの増大の二重苦に喘ぐところが増加している。
 財政力の格差は、公共料金などの住民負担や医療助成、障害者・高齢者福祉など、基本的行政サービスの格差につながっていくことが考えられる。特に地方交付税の削減が、自治体間格差の拡大に追い討ちをかける恐れもあるのではないだろうか。
 人口流入が続いてきた大都市圏内にあっても、ベッドタウンとして人口が急増した都市の場合、大規模団地そのものが一気に高齢化することが考えられる。あ るいは、近年の都心回帰・職住近接志向により若年層が流出し、高齢者世帯やリタイアの時期を迎えた高齢者予備軍の世帯の割合が一気に高まることも予測され る。地域内に一定の雇用能力を有しない都市の場合は、地方の過疎地域と同様に自治体財政に不安を生ずることにもなる。

4、地方税収から見た地域格差
 2007年度に入り、政府・与党側から「ふるさと納税」構想が浮上してきた。地方税収入が首都圏など一部の都府県に偏る傾向が顕著に表れているため、個人住民税だけでも大都市に居住する地方出身者に「ふるさと」への納税を選択させようとする案である。(表2参照)
 ただ、この手法は技術的にはやや難点を有する。また、表3で主要税目の内訳を見ると、むしろ法人2税の方により大きな偏在傾向が見られる。有力な法人の 本社が東京・愛知など大都市を有する都県に集中するためである。法人住民税・事業税などの課税各体を地方へ分散させる方策も求められる。固定資産税も一部 例外を除き、企業が多く立地し、土地価格水準が高く、ビル建設が進む大規模都府県が上位にランクされる。特徴的なのは、自動車税だ。公共交通機関に恵まれ マイカー保有の必要にさほど迫られない地域が低く、マイカー社会が進んだ地域が高い方の上位にランクされる。
(愛知県は、大都市圏でありながら公共交通網でやや立遅れている側面がある)
 フロー課税の軽油引取税の場合は、都市部と地方で、さらに明確なコントラストが表れる。実際の軽油消費量に比例した数値のため、移動手段として主に自動 車に頼る地域の数値が高い。ちなみに、この税は、国税の揮発油税(ガソリン税)とともに道路特定財源としての性格を有する税である。

表2 都道府県人口1人当り都道府県税額指数(2004年度、全国平均を100とする)

順 位

高い方から

順 位

低い方から

1

東 京

174

1

沖 縄

61

2

愛 知

128

2

長 崎

64

3

栃 木

109

3

高 知

69

3

福 井

109

4

宮 崎

71

3

静 岡

109

4

鹿児島

71

表3 地方税主要税目の1人当り税収額指数都道府県別順位(2004年度全国平均)
《地方消費税清算後の数値》

〈個人住民税〉

順 位

高い方から

低い方から

1

東 京

177.6

沖 縄

54.6

2

神奈川

139.3

秋 田

58.5

3

愛 知

118.3

宮 崎

58.9

4

千 葉

116.2

青 森

60.2

5

埼 玉

109.9

鹿児島

60.3

〈法人二税〉

順 位

高い方から

低い方から

1

東 京

267.5

青 森

40.3

2

愛 知

147.5

長 崎

41.5

3

大 阪

129.0

高 知

42.6

4

静 岡

104.8

沖 縄

43.2

5

栃 木

104.6

奈 良

48.2

〈固定資産税〉

順 位

高い方から

低い方から

1

東 京

152.8

沖 縄

61.3

2

福 井

117.5

鹿児島

67.4

3

愛 知

116.6

宮 崎

68.0

4

大 阪

110.6

長 崎

69.3

5

静 岡

110.0

熊 本

72.0

〈自動車税〉

順 位

高い方から

低い方から

1

栃 木

140.0

東 京

72.1

2

群 馬

139.2

長 崎

74.1

3

茨 城

135.4

大 阪

76.2

4

岐 阜

124.8

京 都

84.4

5

愛 知

124.7

沖 縄

85.4

〈軽油引取税(目的税)〉

順 位

高い方から

低い方から

1

北海道

159.8

東 京

51.7

2

岩 手

153.2

奈 良

56.3

3

栃 木

148.5

大 阪

61.1

4

三 重

148.2

神奈川

63.2

5

青 森

147.9

京 都

64.0

  • 表2、表3とも2007年5月現在の総務省「地方税制度」(地方税収等の状況)による

5、市民生活を直撃する格差の実態
 医療、福祉、教育など住民にとって身近な暮らしに直結する側面で格差は深刻さを増している。
 過疎地域を有する地方都市における公立病院などの慢性的な医師不足は、地域医療に深い影を落とす。出産に支障をきたす産婦人科医不在の地域も続出しているほか、救急医療に危機感を抱く地域も多い。
 高齢化が著しい過疎地域では、増大する介護需要に対するサービスが追いつかない状況が生まれている。本来、機会均等であるべき教育についても義務教育段 階から多種の学校選択肢が用意される都市部に対し、過疎地域では、相次ぐ小中学校の整理統合で毎日の通学にすら困難を伴う地域が増加している。
もちろん地方あるいは過疎地域にも負の部分だけでなく、高い持ち家比率、広い居住空間、豊かな自然など都会にはない魅力も存在する。
 見方をかえれば、一通りのインフラが整備され、都市機能もそれなりに充実して、住環境にも恵まれた地方の県庁所在都市クラスの都市が、総合的には評価されるのかもしれない。


6、格差是正実現のためには
 1987年に閣議決定された第4次全国総合開発計画では、一極集中から多極分散へのスキームが描かれた。現在の状況を見ると、道路整備などの推進により インフラについての地域格差の縮小はかなり進んだと思われる。だが市場経済の下でのヒト、モノ、カネの一極集中はむしろ一層進んだともいえる。
 一方で、国・地方を問わず累積した巨額の財政赤字の下で、国から地方に対する補助金や財源調整のための地方交付税を削減するとともに、三位一体による地 方分権・税源委譲を目指した動きが進みつつある。地方分権の切り札として官民双方で検討が進められている道州制も、地方のオリジナリティーの創出とともに 新たな州内格差を生じさせないためのスキームが求められるのではないか。
 市町村に目を転じた時、平成の大合併は、自立可能な規模への自治体集約という効果をもたらした面はあるといえよう。職員の専門性の向上、組織のスリム化 による行政コスト削減効果も今後徐々に表れてくると思われる。ただ、町(村)役場を失った周辺地域では、機能低下による過疎化や空洞化などのマイナス面も 見られる。
 合併の道を選択せず孤高を守った町村の中には徹底した財政支出のカットや観光資源の発掘などにより独自のポリシーを実現している自治体が数多く存在する。
 人口流出に悩む自治体では、リタイアエイジなどをターゲットにして、さまざまな人口呼込み策を展開している。今後、市町村がその独自性を十分発揮して、住みたくなる街、選ばれる自治体を目指して、官民一体となった施策を展開していくことが期待される。


<提言9>
2008.8.1





1、リタイア時期を迎えた団塊世代
 団塊(の)世代という用語が使われるようになって久しい。
もともと戦後の1947~49年、第一次ベビ-ブ-ムに生まれた世代の呼称として、作家・堺屋太一氏が小説の中で使った言葉に端を発する。
 終戦後、復員した父親の婚姻とそれに伴う出生がこの時期に集中し、一時的に高出生率となったため起きた現象だが、米国でも共通の用語として「ベビ-ブ-マ-」が使われることがある。(米国の場合は1946~64年の19年間における出生者を指すことが多い。)
 団塊世代は成長期に厳しい食糧難を経験したほか「ゆりかごから墓場まで競争」と言われ、マンモス学校・すし詰め教室という恵まれない教育環境の下で受験競争をくぐり抜けてきた世代である。
 生存人口推定約680万人(厚生労働省の「出生」統計では約800万人とも言われる)を数えるこの世代のうち、主としてサラリ-マン層が2007~10年に大量定年の時期を迎えている。

2、セカンドライフをどう選択するか
 若年期の団塊世代には、学生運動に象徴されるように既存社会の改革を目指す動きにエネルギーを注いだ人たちが少なからずいた。
 また、企業社会ではオイルショック以降やバブル期に働き盛りの層として日本経済を支えた。企業戦士・会社人間という呼び名のあてはまる層でもあったが、高度成長期に就職時期を迎えて大量採用されていたため、バブル崩壊後にリストラのターゲットにされ易い世代でもあった。
 団塊世代は今熟年の後半期を迎え、その絶対数の多さから、財界のみならず政・官・学界など幅広い分野でトップあるいは中枢として活躍する人材も目立つようになってきている。
 一方で、自営業者など今なお現役を続ける層は別として、大部分の組織人がリタイアの時期に達し、セカンドライフをどう生きるか選択を迫られている。

(1) 人生80年時代をどう過ごすか
 定年を過ぎても知力・体力ともに衰えを見せず、現役時と同様の職務に耐えられる人も多い。また企業側でもその意欲に応えて定年延長・再雇用で処遇する ケースも多く見られる。再雇用される退職者の中には、知識・経験や特殊なスキルを生かして後進の指導にあたる人も決して少なくない。
 一方で、気分を一新して独立自営の道へ転進したり、ボランティア活動に専念する人も多い。今後需要の増大が見込まれる福祉・まちづくりに積極的に関与すべく、NPO活動を始める事例もよく見うけられる。
 いずれにせよ、絶対数の多い層だけに、その活用次第で地域社会の発展・住みよい社会の形成へ貢献する度合いは大きい。

(2) 終の住みかは何処か、誰と過ごすか
 団塊世代は進学・就職時に大量に地方から都市へ移動し、都市部の住宅難をもたらした。
 政府の持ち家政策や核家族化の流れもあって、全国各地で建設の進んだ郊外型ニュータウンに定住した人も多い。
 定年を迎えた今、こうして手入れたマイホームにそのまま居住し、新たな地域コミュニティーでの活動に転ずる人もあれば、都会の雑踏から離れ、自然に恵まれた地方へ移住したり、生まれ故郷への回帰といった選択を志向する人も多い。
 一方で、高齢化したときの交通・医療・福祉への不安から住み慣れた郊外の住宅を手離し、都心マンションに転居するケースもある。
 地方在住者の中には、配偶者を亡くした後、息子や娘世帯と同居するため都市部へ移住する高齢者も数多く見うけられる。団塊世代でも今後こうした選択をする人たちが出てくる可能性は十分ある。

3、地方移住・海外移住に問題はないか
 沖縄・石垣島では、温暖な気候・美しい自然に魅せられて島外からの移住者が急増している。(セカンドハウスに留め、住民票を移さない人も多い)
 2003年から06年にかけての石垣市の統計では毎年数百人規模で人口の社会増加があった。この間、宅地開発・賃貸アパート建設が進み、土地取引が急増、ミニバブルもとりざたされた。
 地元自治体も乱開発や自然環境破壊の防止策、加速するインフラ需要への対応に苦慮するとともに安易な土地購入・住宅建築に警鐘を鳴らしている。
 一方、若年層の流出により高齢化が加速している地方の過疎地では、今後高齢者が都市部の親族と同居するなどにより、過疎化がさらに進み、集落が消滅するのではと危惧する声も聞かれる。
 こうした地域を抱える自治体では、リタイア後の都市住民を呼び込むため①住宅新築費補助②空き家情報バンク③中古住宅購入費補助④一定区画での住宅建築を条件とした土地の無償譲渡など、さまざまな誘致策を展開している。
 各自治体によるこうした受け皿づくりは、地方に人が住み続ける道を開くためにも大切なことといえる。地方の恵まれた自然・土に親しむ生活は確かに魅力も あるが、反面こうした地域では、公共交通機関が極めて貧弱なため、高齢者のみで生活する場合は、ショッピング・通院など移動に相当の困難を伴う。また、旧 来からの慣習を大切にする地域も多く、村落共同体への適応ができないと生活しづらいことになる。
 都会の利便性を長年享受してきた人が直面するいくつかのハードルを乗越えることができれば、地方定住者の増加も実現可能となる。
 リタイア世代には海外プチ移住を選択する人も少なくない。年金収入・退職金の取崩しなどを源資として、北米・オセアニア・東南アジアなどに居を構え、日 本で経験できなかった広い邸宅・豊かな自然を満喫できる。移住先によっては物価水準・生活費などで有利なケースもあるが、必ずしも楽観はできない。言語・ 生活習慣・食文化などの差異を承知のうえでの移住ともいえるが、十分な事前調査や情報収集をしたうえでの移住でないと思いがけない困難にぶつかる恐れもあ る。今のところ数ヶ月間程度の期間で、季節的に良い時期を選んで移住するロングスティが一般的だが、永住ということになれば、相当の覚悟が必要だろう。

4、少子高齢化社会のあるべき姿とは
 団塊世代が高齢化する2015年以降には、高齢者化率が急速に高まるため、医療・福祉などで負担と給付のバランスが大きく崩れる恐れもある。
 行政施策では、この問題を見越して既に年金・医療制度の見直しにより、負担増や給付水準の引き下げに踏み切る動きが出てきている。
 団塊世代が高齢者の仲間入りをしたときには、この年齢層が大きな塊として突出するため、世代間相互の負担・給付関係の適正化を図るとともに、シルバー世代が安心して老後を過ごせるシステムの構築が避けられない。
 日本の総人口が減少傾向を示している今、限られた税財源のさらなる有効活用が迫られている。その意味では、行政施策のプライオリティーをハード・ソフトの両面から真剣に考えるべき時期が訪れているといえよう。




<提言10>
2012.4.1





1、深刻化する地球環境問題
 20世紀末から「地球環境」の問題が世界共通のテーマとしてとりあげられるようになった。
 地球温暖化対策については、国際会議の場でもさまざまな角度から議論され、1997年にはいわゆる「京都レジーム」と呼ばれる環境保護に関するスキームが策定された。
 アフリカ・南米においては、日本の国土面積をはるかに上回る面積の森林が過去20年間で消滅したと言われる。
 増加の一途を辿る世界人口は2011年には遂に70億人を超え、食糧問題等、深刻な課題が横たわっている。
 エネルギー消費が途上国を中心に今後一層増加していくことが見込まれる中、CO2削減に向けた動きは、各国の利害も絡んで順調に進まず、目標数値の実現にはなかなか至らないのが現状だ。
 2010年、名古屋で開かれた「国連地球生きもの会議」(COP10)では、遺伝資源利用に関する「名古屋議定書」と「愛知ターゲット」が採択された。
 これによる目標値が十分なのか、またその実現が可能なのかどうかについては、もちろん参加国の努力に負うところが大であるといえる。
 人類にとって、極めて重大な課題の解決には、各国の国益を超えた協調が求められるところであるといえよう。

2、地球環境の改善に向けた産業界の動き
 世界中で資源消費が拡大しつつある中、国際社会におけるわが国の役割も大きなものがあるといえる。
 環境技術の面では、世界でも高水準にあるといわれてきたわが国も巨大化するアジア市場で必ずしも成果を挙げるまでには至っていない。
大気汚染・水質汚濁を防ぐ環境技術の推進については、今後も産官学による総合的取り組みが求められるであろう。
エコカー・省エネ家電など、各業界における省エネ・環境保護に向けた動きは、今後、量産化や低価格化の実現により、国内・海外向けを問わず、市民生活で普及することが期待される。
わが国の経済戦略としても省エネルギー・環境ビジネスは今後の新しい産業モデルとして経済成長に結びつけていくことが可能な分野であると考えられる。

3、省エネ・環境対策を踏まえた新時代の街づくり
 国・地方ともに深刻な財政危機状態にあるわが国にとって今、インフラ整備のプライオリティーを、かつての高度成長期にふさわしい公共事業から、人口減少・少子高齢化時代に見合う施設整備へとドラスティックに方向転換することが迫られているといえる。
 バリアフリー・環境保護に力点を置いた公共施設整備とともに頻発する震災・風水害に備えた安全対策も限られた財源の使途として、欠かせない事業であるといえる。
東日本大震災・福島第一原発事故をうけて、今わが国においては自然災害に対する備えの強化とともに再生可能エネルギー活用も含めたベストミックスによるエネルギー政策の推進が求められつつある。
今回の災害では甚大な津波被害とともに、軟弱地盤の地域における液状化現象・高層ビルの長周期地震動も問題になった。
より安全な地域への居住地の移転や現在地での地盤改良、高度な建築技術を生かした耐震・免震構造へのシフト等の方策も検討される中、特に被災地の復興にあたっては、新しい街づくりへのコンセプトがその鍵を握っているともいえる。
特に従来から進められてきた省エネ・環境対策に着目したとき、CO2削減に向けた新しいエネルギー源として今後は、ソーラー・地熱・風力・バイオ・水力等多様な再生可能エネルギーの導入を促進しようとする気運が盛り上がっている。
 また、最近では海底の地層に眠る新しいエネルギー源として「メタンハイドレート」の産出試験を目指す海底掘削が始まった。化石燃料ではあるがCO2排出量が比較的少ない資源であり、成功すれば資源小国のわが国にエネルギー自給の道を開くものとして関心を集めている。
こうした中、一定のエリア全体にスマートグリッド(次世代送電網)を活用する街づくり(いわゆるスマートシティー)構想が注目されている。


4、スマートシティーへの熱い視線
 スマートシティーの建設に向けては、既に各地で具体的な動きが始まっている。
 神奈川県藤沢市では、約19haの工場跡地を利用して、戸建・共同住宅合わせて1000戸の居住空間と商業・公益施設を組合わせたスマートシティー計画が実行に移されようとしている。2013年度には住宅分譲を開始するとともに、LED照明・省エネ家電や太陽光・風力発電、さらには蓄電池・EVなどを活用して節電・創電を図るほか、街全体で70%のCO2削減を目指すという。
 省エネ・創エネ・蓄エネの3点セットにより再生可能エネルギーの有効活用を目指す自立型の都市形成は、地域内に良好な居住環境をもたらすとともに、サステイナブル(持続可能)な社会の実現にもつながる。
スマートシティーについては、千葉県柏市でも事業が進められているほか、埼玉県本庄市など各地で構想が練られている。また仙台市若林区では津波被災地からの移転先候補地への導入が検討され、復興手法の選択肢として活用される可能性も出てきている。
 セキュリティー・需給バランス調整機能等、課題もない訳ではないが、今後徐々に各地で進められる可能性がある。
スマートシティーは、土地区画整理事業の施行地域や大規模事業所跡地などで、有効な街づくり手法である。この手法の推進は、快適な居住空間の創出だけでなく、わが国の優れた省エネ・環境技術の発展、さらに産業振興にもつながっていくものと期待される。