マンガ時評vol.60 00/6/17号

「メロディ」の玉と石。

 かつて「花とゆめ」や「LaLa」で少女マンガ界をリードした白泉社が、今もっとも大人向けの洗練度が高いマンガ雑誌として位置づけているのが「メロディ」でしょう。他誌で成長しヒットマンガを連発したベテラン・実力者・大御所たちが、ある意味では趣味的な連載を続けている様子は、少女マンガ界の純文学誌「プチフラワー」ほどではないにしろ、かなりマニアックな世界に入っています。

 「メロディ」の象徴は何と言っても岡野玲子『陰陽師』です。『ファンシィダンス』にしろ『両国花錦闘士』にしろ、もともと岡野玲子は日常からかけ離れた異世界を描かせたら天下一品のセンスの持ち主ですが、この『陰陽師』は夢枕獏の原作を得て、さらに彼女の軽みとユーモアと知性が渾然一体となった感があります。

 さらに「メロディ」には大物が連載を続けています。少女マンガ界の最長不倒作品『パタリロ!』が、現在『パタリロ西遊記!』となって勢いを取り戻しています。西遊記をベースにしたマンガ作品は、それこそ星の数ほどもありますが、この作品ではかなり忠実にストーリーを追いながらも、随所に見られる演出はまさにパタリロそのもの。

 もともとパタリロのキャラクターがいろいろ劇中劇のようにキャスティングされてドラマを演じることはこれまでの連載中にもありましたが、ここまで本格的に始めたのはもちろんこれが最初です。とりあえずまだパタリロ=孫悟空、マライヒ=三蔵法師以外のキャスティングは登場していませんが、これからバンコランやヒューイット、またタマネギ部隊らが、どんな役柄で登場するのか長年のファンとしては大いに楽しみです。

 大物と言えば、最新の7月号から秋里和国の新連載『龍の黄河』が始まりました。まだ1回目だけですが、かなり期待できそうな内容です。古代中国を舞台にしたSFロマンかと思いきや、いきなり現代の日本に話が飛んできたので、ちょっと先の展開が読めません。秋里和国らしいユーモラスでありながら、クールで醒めた視線の作品になることでしょう。

 同じく大物作家でありながらスランプが長いな、という印象を受けるのが川原泉『ブレーメン2』です。かつてあれほど面白い作品を立て続けに発表していた彼女が、突如スランプに陥ってからもうどれだけの時間が経つのでしょう。他の誰にも真似できないと思われた哲学的ギャグが、もうすっかり時代とずれてしまったのか、今では全然笑えなくなってしまいました。

 しかも、スランプを深刻だと感じるのは、単にギャグが滑っているからだけではありません。かつて川原泉の全盛時は、ストーリー展開とギャグのバランスが絶妙だったのです。単なるギャグマンガではなく、ストーリーマンガでありながら絶妙のギャグが挟み込まれ、それが作品を支えるクルマの両輪となっていたのですが、今ではストーリーは単純にモタモタとしていて盛り上がりに欠けるし、そこに入ってくるギャグも苦しそうというのでは、読んでいる方が辛くなってきます。残念ながら復活までの道は遠そうだな、と思わざるを得ません。

 他にも「ちょっとひどいんじゃないの」というようなつまらない連載作品もいくつかあるのですが、その中で拾いモノの作品をひとつ。雁須磨子『どいつもこいつも』は、絵も下手だし決してストーリーテラーと言うわけでもありませんが、女子自衛官の生活という題材の良さが光っています。女子自衛官たちが起こすたわいもない事件は、良く知らないというネタの新鮮さだけで面白く読めてしまいます。もっとも、本当にテーマとネタだけで読ませている作品だけに、もう少しマンガ自体の質が高くなると大化けすると思うので、一層の飛躍を期待したいところです。