マンガ時評vol.59 00/4/17号

『ホイッスル!』と『テニスの王子様』は面白いか。


 マンガを長年読み続けているとは言え、所詮僕の場合マンガ界とは縁もゆかりもない素人ですから、連載を始めた当初に「つまらない」と思った作品が時には大化けすることもありますし、逆に面白いと思ったのにコケてしまうこともあります。それがわかっていても、敢えてこの「マンガ時評」では連載開始直後に今後の展開を予想をしています。何の責任もしがらみもない部外者ゆえ出来ることですが、見事に予想を覆されたのが、少年ジャンプで連載中のスポーツマンガ、樋口大輔『ホイッスル!』と許斐剛『テニスの王子様』でした。

 この2作品、それぞれVol.34Vol.53で僕はスタートしてすぐに酷評しました。2年前に始まった『ホイッスル!』はジャンプの苦手なサッカーマンガです。『キャプテン翼』という大ヒットを生んだにも関わらず、その後のサッカーブームに乗り切れなかったジャンプが、苦し紛れに「とりあえず」という感じで出してきたのがこの『ホイッスル!』でした。

 当時ジャンプの新連載陣でもっとも注目されていたのは、冨樫義博『HUNTER×HUNTER』であり、次に森田まさのり『ROOKIES』でした。ともに実績のある期待の作家ですから、宣伝にも力が入っていましたが、『ホイッスル!』の方はサッカーマンガもありますよ、という印象でしかなかったと思います。その力の入っていない感じが誌面から漂っていただけに、僕も「半年もたない」と書いたのですが、その予想に反して2年経った今でも連載が続き、すでに100話を超えてしまいました。

 この『ホイッスル!』における「とりあえず」感の強さは、実は今も変わっていません。それにも関わらずここまで何とか連載が続けられたのは、あまりにも個性がない、それゆえに道を踏み外さない王道的スポーツマンガ路線を歩んでいるからでしょう。とりたててオリジナリティのある展開もキャラクターもない、どこかで見たことがあるようなストーリーと絵です。読者の反応を見ながら「こんな感じで」という具合に描いているのが目に浮かびます。これが「とりあえず」感の強さになっているのですが、逆にそのお手軽さ、底の浅さが、マンガに対して深く読み込まない、コアではない読者にとっては読みやすさにつながっているとも考えられるのです。

 このお手軽さというのは、同じ雑誌内にマニア受けするような他の作品があってこそ成り立ちます。『HUNTER×HUNTER』や荒木飛呂彦『ジョジョの奇妙な冒険 part6ストーンオーシャン』、藤崎竜『封神演義』のようなマニア受けする難度の高い作品を読んだ後、お口直しに軽く読み流せるのが『ホイッスル!』なのです。誰が読んでもあっという間に読み飛ばせる敷居の低さが、このマンガの存在理由だと僕は考えています。大好きとは言ってもらえなくても、そこそこの支持を受け嫌われることもない。なるほど2年間大ヒットしたわけでもないのに続いた理由がわかります。

 逆に『テニスの王子様』は癖の強い作品です。テニス好きの僕としては、この作品におけるテニスシーンの下手さ加減に未だにイライラするのですが、40話近くなってもまだ好調に連載を重ねています。スポーツマンガにおいて、動きの美しさとスピード感がないのは致命的だと思うのですが、この作品は敢えて「動き」ではなく「止め」を描いているようにすら感じます。歌舞伎で見得を切るように、決めのポーズだけでテニスを描こうとしていると考えるのは、ちょっと深読みし過ぎでしょうか。単に絵が下手なだけかも、と思わなくもないのですが。

 内容的にはかなりテニスを研究して、その上でマンガ的にアレンジを加えています。かつてのテニスブームの頃と違い、今ではテニスファンも少なくなっていますから、技術的な解説を一からわかりやすくするとともに、実はそれほど難しい技術ではなくても、まるで魔球のように描くさじ加減が絶妙です。単なるキックサーブや、トップスピンとスライスの打ち分けを、まるで大リーグボールのように見せているのは、古いテニスファンにとっては噴飯ものですが、テニスを知らない、もしくはテニス部に入ってテニスを始めたばかりの少年には、かえってリアルに映るのかも知れません。

 キャラクターも少年マンガとしてはかなり偏っています。妙にクールで偽悪的。思い入れしやすいキャラが少ないのも、ジャンプ作品としては異例だと思います。全てが常識的な枠の中にある『ホイッスル!』とはある意味対極的なスポーツマンガですが、大ヒットしないだろうという意味では似ています。もちろんまだ『テニスの王子様』は開始1年足らずですから、さらに半年、1年後には大化けしている可能性もゼロではありません。僕個人としては盛り上がらない展開故に、打ち切りになる方に賭けますけどね。