cinema eye

『居酒屋ゆうれい』

鑑賞日95/8/6(ビデオ)
 昨年話題になった居酒屋を舞台にした幽霊コメディ。軽いノリながら、なかなか日本映画らしい風情がある楽しい映画でした。

 横浜のいまどきこんなところがあるのか、と思うような、時代に置き忘れられたような下町の居酒屋。ここの主人萩原健一が、再婚しない、という亡き妻・室井滋との約束を破って、新しく山口智子と結婚したところ、前妻が幽霊となって出てきてしまって、大騒ぎ、という映画です。これに居酒屋に出入りする客たちの人生模様が加わって、映画は賑やかに、しかし日本的な夏の風情を湛えながら展開していきます。

 なんと言っても幽霊役の室井滋が上手いです。嫉妬にかられてあの世から出てきた幽霊というのに、その幽霊のけなげで可愛い女心を見事に演じきっています。対して後妻役の山口智子も、熱演していますが、少々オーバー過ぎる気もしました。もっとも室井滋に体を乗っ取られるところなどは、大変難しい場面で、このあたりの熱演ぶりは評価されるべきでしょう。この2人をはじめ、客役の三宅裕司や八名信夫、橋爪功などとの絡みも含め萩原健一は全部これらを受ける演技で、それはかつての「前略おふくろ様」のショーケンを彷彿とさせます。彼を狂言回しのように軸にして周囲の物語が展開していく様を、監督の渡邊孝好がうまくさばいているという感じで、全体によく目配りができた映画、という印象でした。惜しむらくは、山口智子が昔の男(豊川悦司)と絡む場面だけが、少々全体の中で浮いているような感じがして残念でしたが。

 このレベルの映画を日本映画界もコンスタントに送り出してくれれば、もう少し期待が持てるのでしょうがね。

今回の木戸銭…1300円