cinema eye

『ツイスター』

鑑賞日97/8/20(劇場)
 東洋では自然とは従い共生するものだが、西洋では自然は戦い征服するものである。この映画には、そうした西洋人の自然観や思想を垣間みることができます。しかし、今回の戦いはあまり にも敵が強大過ぎました。恐るべき猛威をふるう竜巻に挑む人間たちは、かのドンキホーテよりも愚かに、そしてひ弱に見え、後に残るのは、やっぱり自然には勝てないな、という東洋的諦念だけだった、と思うのは、僕が自然と共生する日本人だからでしょうか。でも、あれで竜巻に勝ったとか、少なくとも一矢を報いた、とか思っているのなら、西洋人は、お気楽過ぎ。だって、アルミ缶の羽根をつけたセンサーが竜巻に巻き込まれただけだぜ。それであの巨大竜巻がどうにかなるのか?

 それにしても、映画の「見せる」技術のアップ率は、実にとんでもない右肩上がりカーブを示しています。T2のSFXに驚いてから、どれほどの時間が経ったというのでしょう。これはコンピュータで作った絵だよ、と言われているから「そんなもんだ」と思ってストーリーを追いながら見ていられるけれど、知らずに見せられたら、「一体どうやってこんな映像を撮ったんだ!」と驚いているだけで、この映画は見終わってしまうに違いありません。

 ただ残念なことに、これはCGだと知って、ある程度冷静に見ていられる、そのことが仇になってもいます。「映画として」ストーリーを追いながら見ていると、映像の超一級の出来映えに対して、それに絡む物語は、陳腐で二番煎じな印象が拭えないからです。基本的な展開はヤン・デ・ボン監督の前作『スピード』と同じです。強力な敵に挑む主人公の男女が、戦いの中で愛情を育み、最後には結ばれるという全く同じ設定がなぞられています。

 この男に対して2人の女性が絡むけれど、もう一目で最後はどちらとくっつくのかは明らかだし、大体どうして竜巻マニアの男が、精神科医の女と結婚しようと思ったのかが不思議なくらいです。陳腐なラブストーリーに加えて、「主人公には弾が当たらない」アクション映画の法則も健在で、やたらめったら雨霰のように竜巻からいろいろなモノが主人公めがけて襲いかかるのに、決して彼らには怪我ひとつ負わせません。ライバルはなにもしないうちに、あっさり竜巻に巻き込まれて死んでしまうというのに。

 ラストで巨大竜巻に巻き込まれた2人が竜巻の内部を放心したように見るシーンがあります。これも技術の粋を集めた絵を見せたい制作者の意図はともかく、タンクローリーさえ軽々と巻き上げる竜巻なんだから、絶対にあんな余裕はないはずだ(どころか死んでるでしょ、普通は)、と見ている方は首をひねってしまいます。荒唐無稽でも面白さを優先していい場合と、リアリティを重視して欲しい場合があって、そのバランスは微妙ですが、ここはさすがに無理があるのでは、と思いました。

 ただ、テンポはいいです。次々と展開していくストーリーは見るものを飽きさせません。このあたりも『スピード』と同じで、この手の映画には理屈よりも展開の早さだ、ということが監督はよくわかっているのでしょう。映像は超一級ながら、その絵にだまされないぞ、と思って見てしまったひねくれ者には、ちょっとな、という気持ちが残った映画ながら、基本的には絶対に面白い映画です。ただしビデオで見たら、どうかなぁ。

  今回の木戸銭…1500円