cinema eye

『東京上空いらっしゃいませ』

鑑賞日91/4/28(ビデオ)
 公開時から評判の高かった『東京上空いらっしゃいませ』を、ようやくビデオで見ることができました。感想は…ちょっと期待はずれでしたね。

 この手のファンタジックな幽霊話はさして珍しいものではないだけに、監督と役者の資質が問われるテーマだと思ったのですが、残念ながら安手な作りと牧瀬理穂&鶴瓶の下手な演技ばかりが目立つ結果となっていました。相米慎二監督と言えば、もう若手とは言えないキャリアの監督ですが『セーラー服と機関銃』の頃から全然進歩がないんじゃないかと思えました。カリカチュアされた現実社会(それがアイドルの内幕でありヤクザの抗争)と、その秩序を乱す女子高校生のファンタジーというパターン。別に同じパターンで映画を作ることが悪いわけではないのですが、それがどうもファンタジーというよりは、ただの「おとぎ話」で終わっているのが物足らないのです。

 ファンタジーたるためにはスピルバーグの一連の作品を例に引くまでもなく、それと対になる現実がリアリティを持っていないとならないと思います。甘味を増すために塩を入れるのと同じことが映画の中でも行われていないと、大人の鑑賞に耐えるファンタジーにはならず、ただの「おとぎ話」になってしまう。ところが相米作品は昔も今も全体に甘い。ピリッとした現実がリアリティを持たないせいです。この映画で言えばあのような大キャンペーンが、あんな高校の学園祭のように小人数でゴソゴソと作られているわけないし、いまどきアイドルを人身御供に差し出す広告代理店もいないでしょう。ましてや死亡事故を世間に隠すなんて真似が、一企業の役員クラスでできるはずもない。こうした余りに稚拙なストーリーが物語の中では重要なポイントとなっていることが、この映画を安く見せている原因の一つだと思われます。

 牧瀬の演技が下手なことは、彼女の存在感で帳消しにするにしても、鶴瓶はやっぱりミスキャスト。全然大スポンサーの役員には見えない。せいぜい広報課長くらい。天国への案内人としては、まあ辛うじて合格点をあげるにしても、やっぱり物足りなさは否めませんでした。これなら『四月怪談』の方がずっと面白いと僕は思います。

 ところでこの映画、ビデオで見たから余計「安く」見えたのではないかと思いましたが、どうでしょう?これにしても『櫻の園』にしても、低予算の映画を明るく小さな家庭のテレビ画面で見ても、どうもパッとしないんですよねぇ。『ダイハード』のような映画こそ劇場で見て迫力を堪能しなくてはと思っていましたが、どうも逆のような気がしてきました。ちゃんと金のかかった映画ならビデオで見ても面白いけれど、金のかかっていない映画は劇場という味の素をかけないと辛いようです。

今回の木戸銭…600円