cinema eye

『トキワ荘の青春』

鑑賞日97/6/29(ビデオ)
 かの有名なマンガ家の梁山泊「トキワ荘」。そこの住人たちの未だ売れない時代を、このトキワ荘の兄貴分的マンガ家であり彼らが作った「新漫画党」の党首である寺田ヒロオを主人公に描いた市川準監督の最新作です。主演の寺田に本木雅弘、それ以外の主要人物にはほとんど有名な俳優は起用されていません。現役バリバリの人たちを描くわけですから、あまり有名な俳優が演じるよりも良いキャスティングだったと思います。石森(まだ石ノ森ではない)章太郎なんかとても良く似ていましたし、藤子不二雄の2人もいかにも。赤塚不二夫を演じていたのは大森嘉之でしたが、彼はさすがにうまいです。まあモックンだけは、ちょっとフェロモン出過ぎ、2枚目過ぎました。

 ただ映画としては、どうなんでしょうかね。このトキワ荘のことを良く知っているファン(マニアか?)には、説明の少ないこの映画でも問題はなかったと言うべきか、今さらな蛇足的な状況説明はいらないのでしょうが、ほとんどの人には、一体どういう話でどんな人間関係なのか、ちっともわからないんじゃないでしょうか。それくらい舌足らずな映画です。もちろん、こんな映画を見るのは、どうせマニアしかいない、と言うのなら構いませんが、そんな一部受けだけで映画を作るなんて、あまりにも志が低いと言わざるを得ません。もともと市川監督の映画って、僕は全般に独りよがりで不親切、エンターテイメントとして成り立っていないと思っています。この映画もその悪癖が出たという感じがしました。

 画面の暗さとセリフがこもっていて聞き取りにくいのも、大きなマイナスですね。見ていてとても疲れてしまいます。そのあたりは悪い日本映画の見本のような作品で、画面の暗い映画が良い映画と思っているのなら最低です。で、じゃあ話として映画ならではの新しい発見があるのかと言えば、それも各種資料で書かれていることを映像化しただけで、新鮮さもありません。寺田ヒロオの時代遅れと言われようと良質な児童マンガを描きたい、という葛藤を描くなら、もう少しストーリーを整理すべきではなかったのでしょうか?そりゃ水野英子らのエピソードが挿入されれば、ファンは喜びますがね。マンガ家が大好きな人が、マニアックに見る以外は、あまり面白くない映画だと思います。

今回の木戸銭…600円