cinema eye

『ラヂオの時間』

鑑賞日98/6/30(ビデオ)
 鬼才・三谷幸喜が脚本だけではなく初めて監督に挑んだコメディ。気合いの入った良い出来映えに感心しました。最近テレビドラマの脚本では失敗続きの三谷ですが、やればできるじゃないか、という印象です。

 映画はほとんどラジオ局のスタジオの中で進んでいく三谷お得意の密室劇。彼の出世作になった『12人の優しい日本人』とよく似た作品です。シナリオコンテストで優勝し、初めて自分のシナリオがラジオドラマになる主婦のシナリオが、主演女優のわがままから端を発し、どんどん書き換えられていきます。生放送のラジオドラマなのに、最初は少しずつ、次第に破壊的なスピードでトラブルが巻き起こり続け、それに右往左往するスタッフたちの様子が、リアルに描かれます。この次第に歯車が狂っていく面白さはいかにも三谷幸喜。脚本家を題材に選んでいるのですから、脚本家三谷にとっては扱い易いものだったのでしょう。

 『12人の優しい日本人』では、林美智子以外ほとんど有名な俳優は出演していませんでしたが(無名時代の豊川悦司は出ていますが)、この『ラヂオの時間』では逆に有名俳優ばかり。チョイ役に宮本信子だの桃井かおりだのまで顔を出していますから、三谷幸喜の出世ぶりがよく窺えます。主演の鈴木京香、西村雅彦、唐沢寿明をはじめ、脇を固めるのも三谷作品常連の俳優ばかりなので、計算通りの破綻ない演技を見せてくれます。ただ、みんなイメージ通りの演技で、それ以上の爆発ぶりを見せてくれている俳優がいません。全体にかなり計算された破綻のない映画なのですが、それゆえに小じんまりとまとまってしまった感じで、そのあたりが監督・三谷幸喜としての限界なのかも知れません。

 それと決して映画館のスクリーンに相応しいサイズの作品でもありません。テレビ画面サイズの作品です。ビデオ作品としてはよくできていますが、劇場で見たらちょっとガックリするかも。脚本は本当に素晴らしい出来です。監督としては、まあまあ。手堅いけれど凡庸かも。例えば中原俊がこの映画を撮ったらどうなるのか、ちょっと見てみたい気がしました。

今回の木戸銭…1400円