cinema eye

『プライベート・ライアン』

鑑賞日99/10/12(ビデオ)
 ご存知スピルバーグ監督がアカデミー監督賞をもらった戦争映画。第二次世界大戦のノルマンディー上陸作戦を舞台に、政治的配慮からただ1人の二等兵を救出するために8人の兵士たちが命をかける物語です。

 戦争映画には戦争自体の愚かさを描く映画と、戦争という非日常空間を通して人間の生と死を描こうとする映画があります。この作品は冒頭30分のリアルな戦争シーンを見てもわかるように、戦争自体をより克明に描写しようとしていますが、後半に入ると一転して人生について考えさせるような展開になってきます。一粒で二度美味しいというのを狙ったのかも知れませんが、逆に人間愛にこだわるスピルバーグの「臭み」がちょっと鼻につきます。リアルな戦争をもっと突き放した冷徹な視線で描いていれば、また違う作品に仕上がっていただろうと思います。

 そして、この映画の最大の弱点は、せっかく集まった8人の戦争スペシャリストたちのキャラクターが描き切れていない点です。それぞれに個性的な異能集団を描くつもりがあるのなら、もっと各登場人物ごとにエピソードを盛り込むべきでしょう。それなのに実際にはどうして死んでしまったのかもわからなくなるようなぞんざいな描き方をしています。このあたりの執拗さがあればスピルバーグも敬愛するクロサワを超えることができるのにと思いました。

 そう、この映画をスピルバーグ版『七人の侍』だと考えればわかりやすくなります。7人ではなく8人いますが、戦争のスペシャリストたちが、不利とわかっていても戦いの場に臨み、そして次々と倒れていく様は、まさにクロサワでした。それだけに、8人の侍それぞれのキャラクターをもっと丁寧に描いて欲しかったと思います。

  今回の木戸銭…1300円