cinema eye

『おもひでぽろぽろ』

鑑賞日91/7/30(劇場)
 宮崎=高畑コンビの新作アニメ。ナウシカやトトロに比べ、宮崎印にしては、受けはイマイチのようですが(曰くレトロねたアニメ、曰く今井・柳葉のプロモーション・アニメ等)、僕は前評判よりもずっとしっかりした骨の太い作品であることに感心しました。確かに「ひょっこりひょうたん島」をはじめレトロねたが一杯出てきますが、でも言われているようなレトロだけの作品ではありません。

 昭和41年・10才のタエ子と27才(と言うことは舞台は昭和58年か)のタエ子が重奏的に絡まりながら、27才にして人生の転機を感じているタエ子の成長と自立を10才のタエ子のそれとにだぶらせて描いていきます。この辺の脚本と演出のうまさはさすが手練れの技です。

 また当時から始まり今に続く若い女性たちの変貌を(晩婚化・タカビー女・オヤジギャル・転職・留学ブームなどを暗示させるようなタエ子の行動・思考パターン)少々皮肉を込めて描いているところも秀逸です。

 さらに強烈なのが、最近流行りの安易な自然礼讚への批判。「日本の田舎は全て人間が作ったものだ」というフレーズ。タエ子のうすっぺらな自然志向を痛烈に自己批判させるシーン。こうした箇所に宮崎アニメの「牙」の部分が覗いています。

 もちろんエンタテイナーとしての宮崎、も健在で、昭和41年の風俗を再現するために費やされた努力と執念には凄まじいものがあります。映画の細部の本当に隅の隅まで、妥協を排して描きこんだ画面に、同時代を生きた者なら感嘆せずにはいられないでしょう。「ひょっこりひょうたん島」の各シーンには懐かしさの余り思わず涙が出ます。(出なかったけど)まさにレトロの部分だけ見ていても十分に楽しめる映画です。

 まあ問題は、やはり主人公の二人が今井美樹・柳葉敏郎に似過ぎていることでしょう。もちろん最初からこの二人をイメージキャラクターとして作ったそうですから、似ていて当然なのですが、アニメとしては少々不自然な感じが否めません。笑い顔のシワや目の線は、もう少しアニメらしくしたっていいんじゃないの、と思います。ただ、今井美樹・柳葉敏郎という俳優のイメージ自体は決してこの映画の雰囲気から外れていませんから、まあ許すことにしましょう(笑)。

 宮崎駿は裏切らないなぁ、と思いましたが、ただ、本当に感情移入できるのは、やはり30代前半の女性が一番でしょう。うちのカミサンは心底喜んでいたようでしたから。

  今回の木戸銭…1300円