cinema eye
鑑賞日97/7/2(試写会)
宮崎駿監督が、渾身の力を込めて作った製作費20億円、総セル画数14万枚という超アニメ大作。声優に有名俳優を多数起用し、ある意味、アニメを超えようとしているアニメ映画です。
物語は中世から近世へと移りつつある日本。大和朝廷に追われ、東北の山中にひっそりと暮らす一族を、「タタリ神」と呼ばれる呪われた荒ぶる猪神が襲います。その猪神を討ち、村を救った若者アシタカは、死の呪いを受け、その謎を解くために西へと旅立ちます。そして訪れた西の国で、荒ぶる神々と人間の壮絶な死闘に巻き込まれていきます。
基本的には開発と自然保護の対立、人間が幸せを追求することは、他の生き物から搾取していくことに他ならないという、ナウシカ以来のメッセージの繰り返しです。違いは、ナウシカやラピュタのような無国籍のファンタジーから、日本を舞台にした冒険アクション映画になったことです。これまでのお子さま向けという顔をすっかり変え、首や腕が飛ぶかなりハードなシーンも入れた年齢層の高いところを狙った作品に仕上がっています。
より高い年齢層をターゲットにしただけに、同じテーマを扱っていても、ナウシカよりメッセージがこなれていて僕は作品としての完成度は高いと思います。娯楽冒険時代活劇としてのエンターテイメント性もかなりのレベルです。ただ残念なのはいくら完成度を高めようとも、所詮はナウシカの自らフォロワーになってしまっていること。あの衝撃度はありません。アニメなのにここまで踏み込んでいくか、と思わせたナウシカの感動を超えることはできなかったと思います。
ただ、さすがにアニメーションの美しさは絶品です。オープニングからエンディングまで、そのアニメーションの質の高さは全て素晴らしいの一言です。ディズニーアニメとは違う方向で、ディズニーを超えようとする宮崎監督の志の高さは称賛に値します。
声の出演は、主人公アシタカに松田洋治。ヒロインに石田ゆり子。他に田中裕子、西村雅彦、上條恒彦、小林薫、森光子、美輪明宏、森繁久弥など実に豪華な顔ぶれです。しかし、本来の声優とこれら豪華俳優、どちらが良かったのかは判断の難しいところだと思います。声優の演技というのは、どうしても一種の癖というか型のようなものがあって、ステレオタイプでオーバーな演技になりがちです。そういう癖がない俳優の演技は、アニメファンではない観客にも素直に聞くことができます。しかし、逆にそういう声優ならではの癖のある演技は、記号的にわかりやすくシーンの理解を助けてくれます。この映画では、僕は豪華俳優陣はさすがだとは思い、その起用は正解だと思いましたが、子どもには一層内容理解が難しくなったんじゃないかという気もしました。
声優もそうですが、少女ではなく今回は少年が主人公であること、空を飛ばないこと、可愛らしいキャラクターが少ないことなど、従来の宮崎アニメとは異なる部分も多く、アニメファンにはあまり受けないかもしれません。しかし、この作品はディズニーによる世界配給が決まっています。つまり、よりワールドワイドに大人の観客を意識した作りになっているわけです。僕はこの変化は悪くないと思うのですが、果たして動員という意味ではどう出るでしょうか、ちょっと興味深いです。
今回の木戸銭…1400円