cinema eye

『水の旅人 侍キッズ』

鑑賞日93/8/30(劇場)
 話題の大林監督の新作をようやく見に行ってきました。まだ夏休み期間ということで、結構劇場には子どもの姿が目立ちましたが、確かに子どもたちに見せてやりたい秀作です。

 これは一種のピーターパン物語で、子どもが大人へのステップを登るときにに、ピーターパン的な存在を媒介として成長していく物語です。もちろん、現代日本の話ですから、そこには環境問題に対する示唆があり、親子や家族の復権というテーマがあり、老人と子どもの触れあいと伝承という失われた世界への回帰があり、古き良き日本社会への懐古があります。しかし、それらは現代に一寸法師を甦らせようとした時に、必然的に生じる問題ではあるかもしれませんが、やはり一番骨子となるべきテーマは、少年の成長であることに間違いありません。

 それはかつて『転校生』で『さびしんぼう』で『ふたり』で大林監督が描いてきた子供時代への別れと大人へのステップアップと同じテーマではありますが、今回はさらに若い時代を描いているわけです。ただそのぶん、どうしても映画としては共感を呼ぶには弱いストーリーになったような気がします。やはり青春時代ならストレートに語れる事柄が、青春以前の設定では、全てを背負わせるには無理があり、それが姉の成長や、夫婦の復活というサイドストーリーへの傾斜を生んだと思われます。

 山崎努は熱演。しかし、子役はよく演じていますが、もうひとつな印象。その他の脇を固めるいつもの大林組の俳優陣も今回は印象が薄い。特撮はもともとそれほど期待していないので、あの程度か、というもの。大林監督独特の細かい慌ただしいカット割りは好き嫌いはあるでしょうが、まあそれほど気にはなりませんでした。全体としては、まあまあかな、と言ったところでしょうか。去年の『青春デンデケデケデケ』の方が好きでした。

今回の木戸銭…1000円