cinema eye

『みんなのいえ』

鑑賞日01/6/21(劇場)
 「ラヂオの時間」に続く三谷幸喜監督第2作。前作はいかにも三谷らしい徐々に暴走していく密室劇でしたが、それに比べて今回は比較的予定調和的なおとなしいホームドラマでした。

 脚本家の田中直樹と八木亜希子の夫婦が家を作るにあたって、設計を依頼したのが八木の後輩の内装デザイナー唐沢寿明、施工は八木の父親の大工田中邦衛。海外の建築に詳しく時代の最先端を意識する唐沢寿明と、頑丈さと伝統を重視す田中邦衛の2人のこだわりがぶつかり合って、間に入った施主田中直樹は右往左往する羽目になります。

 家を建てるまでをマニュアル的に描いていく手法は伊丹十三的ですが、三谷らしくよりコメディ色が強くなっています。とは言え、所詮ストーリーとしては唐沢寿明と田中邦衛がお互いに理解し合って、最後は無事新居が完成するわけで、特に驚くような大どんでん返しがある訳ではありません。そういう意味では「脚本家」としての三谷は過去の作品群と比べて傑出しているとは到底言えないと思います。

 ただ「監督」としての三谷は前作以上に冴えを見せていたと思います。今回は特にキャスティングが独特でした。唐沢と田中邦衛という芸達者なベテランを軸に据えているとは言え、狂言回し的な夫婦役にお笑い芸人の田中直樹とアナウンサーの八木亜希子という素人を抜擢し、この素に近い2人の演技と、唐沢&田中邦衛の過剰な演技との対比を面白さに転換していきます。

 田中直樹の役は、ほとんど三谷幸喜本人のイメージそのままで、そのあたりの楽屋落ち的くすぐりも効いていますし、やたらとチョイ役で三谷作品にお馴染みの有名タレントが次々と顔を出すあたりも、見ている我々を喜ばすサービス精神旺盛な作品に仕上がっています。

 純粋に映画として見たときは「ラヂオの時間」の評価の方が高いと思いますが、トータルに観客を楽しませるという意味では決して前作に劣ってはいません。ただ、そのサービス精神が過剰に過ぎて、僕には逆にもったいないとも感じられてしまいました。余計な部分に目が行き過ぎて、映画の本質に目が届きにくく思われるからです。

今回の木戸銭…1000円