cinema eye

『Lie lie Lie』

鑑賞日99/1/3(ビデオ)
 『12人の優しい日本人』『櫻の園』などの作品で質の高い映画を作り続けている中原俊監督の新作。原作は中島らも、そして魅力的なキャストで絶対面白いこと間違いなしと思って見ましたが、残念ながら期待ほどではありませんでした。

 詐欺師・豊川悦司、写植オペレーター・佐藤浩市、編集者・鈴木保奈美。この3人が繰り広げる詐欺は佐藤が無意識のうちに書いた散文詩を「幽霊が書いた」と偽って売り込むこと。うーん、この手の詐欺ものというのはいかに巧みな詐欺の手口を見せるか(と言うか観客をも騙すか)というところにカタルシスがあるのですが、この映画にはそれがありません。詐欺と言うにはあまりにも単純で、そもそも詐欺なの?と思ってしまうような手口。危険な橋を渡るスリルも、成功後それでどのくらい儲かったかという喜びの爆発もありません。しかも、佐藤と保奈美の恋愛模様もあるのですが、これも丹念に描かれることもなくいきなり成就してしまいます。

 ではつまらないのかというと、実はそうでもありません。正直脚本はつまらないのですが、演出はなかなか冴えています。特に豊川と佐藤の2人の掛け合いによって、この2人のキャラクター、内面の描写がとても丁寧に描かれます。どちらかというと、この映画は娯楽作品というよりも文学作品なのです。そう考えれば過去の中原作品に共通したものを感じます。期待ほどではなかったですが、決して外れでもない、というのが正直なところでした。

今回の木戸銭…1100円