cinema eye

『レオン』

鑑賞日96/5/5(ビデオ)
 リュック・ベッソン監督の作る映画は、言葉でなく映像でもなく、淡々と綴られるエピソードが一番饒舌な気がします。ぼんやり見ていても、それなりに面白い映画なのだけれど、丹念に見ていけばいくほど、それぞれのエピソードがなにかしら語りかけてくるという深みがあります。一見娯楽的なアクション映画かと思わせておいて、実は人間の深い悲しみや孤独、そしてそれゆえに人とのつながりを求め、愛を求める弱さと強さ、なんてことをじんわりと語りかけてきます。この監督の一番美味しい部分は、まさにこの「じんわり」感です。

 『レオン』においても、ベースにあるストーリーは無口な殺し屋と孤独な少女の交流と破滅を描くハードボイルドです。あまり細かに語られることのないバックグラウンドは、エピソードを紡いでいくことによって一応補強されてはいますが、決してそれは不親切ではないにしろ、説明的でもありません。少しずつ打ち解けていくレオンとマチルダ。それぞれの孤独と優しさと敵に向かう強さが、エピソードの積み重ねによって観客にじんわりと伝えられていきます。ミルクが、観葉植物が、ブタが、ぬいぐるみが、腹筋のトレーニングが、2人の心を代弁してくれます。そしてまた、この2人が決してハッピーエンドで終わらないであろうことも。

 さらに画面は常に狭い視角の中で語られます。まさにレオンの、マチルダの視野そのままに。実は人間なんて世界のほんの一部しか見えていないことを、監督は知っています。その狭い世界の中で懸命に生きようともがいている、その人間の意志を、監督は愛しているのだと思います。監督のまなざしが優しいからこそ、こんなにも優しくて綺麗で静かなハードボイルド映画が作られたのでしょう。

 最後に役者のことを。ジャン・レノがいいのは今さらですが、敵役のゲイリー・オールドマンも、優しい顔して切れているという二面性をうまく演じていて、なかなか魅力的です。そして何と言っても、マチルダ役のナタリー・ポートマン。大人であってしかも子供であるという不思議な魅力を醸し出していて実に素敵です。体つきはまだまだ全然子供なのに、その雰囲気は時として圧倒的に大人の女です。彼女の起用なくして、この映画は成功しなかったでしょう。

 ガンガン銃をぶっぱなし、沢山の人が死んでいるにも関わらず、とっても静かで綺麗な映画を見た気がしました。「じんわり」効いていくる上質なワインのような作品です。

  今回の木戸銭…1700円