cinema eye
鑑賞日92/7/18(劇場)
この夏いちばん期待していた映画なので、昨日封切りと同時に見に行ってきました。で、感想ですが、これはまさに宮崎監督の趣味の世界、その一言に尽きますね。そして『紅の豚』に比べると過去の宮崎作品はなんと計算された商業作品か、ということを痛切に感じます。エンターテイメントでありながら、その時最も共感を得られるようなテーマを巧みに訴えていく。それはアニメを最初からバカにして見ないような旧来の観客までも劇場に呼び込むためのプロのしたたかな計算であり、その計算はここまで完全に成功してきました。そしてその成功を基に、宮崎監督はここに完全なる自分の趣味の作品化を果たしたのです。
とにかく『紅の豚』はとりたてて言うようなテーマもなければドラマチックな ストーリーもありません。ただ飛行艇がぶんぶんと空を飛び回る気持ちいいだけの作品です。ああ、この人は本当にこういう世界が好きなんだなぁ、と思わせる ある意味ではとてもピュアな作品だと言えます。これに宮崎というブランドがついてなければ、おそらく映画として興行的に成功することは不可能でしょう。彼だからこそ、こうした映画が全国ロードショーになるのです。
でも趣味を形にしただけだからと言って、独り善がりの訳のわからない映画かというと、それは全く見当はずれ。最初から最後まで見る者を飽きさせない楽しい映画です。ユーモアとアクション、そしてロマンスが見事にブレンドされてこれが日本人の手による映画かと疑うほどに洒落た小品に仕上がっています。そう、この作品はいつも大作に取り組んでいる画家が、たまに好きな風景を息抜きにさらさらとデッサンしたような、そんな趣のある小品なのです。息抜きでも一流は一流の息抜きをします。さすがです。
この作品、飛行艇が主役だけに空を飛ぶシーンがとにかく気持ち良く綺麗です。また決め台詞が数多く出てきて、まるでハンフリー・ボガードの映画のようです。そして豚がかっこ良くハードボイルドする映画だけに、中年を前にしたおじさんにも、「まだまだこれから」と気合いを入れさせてくれる頼もしい映画です。僕も怠惰でかっこいい豚になりたい。そしたら女にもてるんだろうなぁ。。。
アニメファンではないので、声優については大してこだわりはないのですが、森山周一郎・加藤登紀子というのは結構はまっていたと思います。
今回の木戸銭…1300円