cinema eye

『フック』

鑑賞日92/6/26(劇場)
 子ども騙しです。もう、本当に子どもしか騙せない。スピルバーグ印の映画としては、『グーニーズ』の系列に入るのでしょうが、演技派の有名俳優を使っている分だけ、こちらのほうが罪が深いと言えましょう。

 企画は秀逸だと思いますよ。飛ぶことを忘れたピーターパン。あまつさえ彼は、仕事人間で家族とコミュニケーションすることすら満足にできない。しかし、本人はすっかりかつての記憶を失っているというのに復讐に燃えるフックによって子どもをさらわれ、もう一度ピーターパンとして戦わなければならなくなってしまった。。。

 面白いじゃないですか。これでロビン・ウィリアムス、ダスティン・ホフマン、ジュリア・ロバーツとくれば、誰だって期待しちゃいますよね。それで、このザマだ。悲しすぎる。

 なにがいけないって、やっぱりメッセージが見えすぎることでしょうね。つまりクサイ。いかにもスピルバーグっぽい、子どもが最高、家族が一番、いつまでもピュアでいようね、的なもの言いが溢れすぎていて途中から辟易してしまう。そんなことをあからさまに言われたって、今や新しくもなければ驚きもない。そおっと伝わるような感じでなら、「ふんふん、そうだよな、やっぱ人間汚れてしまっても、心のどこかに純粋な部分は持ち続けていたいよな」なんて密かに(あくまでも密かに、だ。おおっぴらに、例えば酒場でそんな戯言ほざいたら気持ち悪がられる)思うことでしょうが、ここまで大げさに押しつけがましく言われると、「けっ、バッキャロー」てなもんですよ。

 この映画を見て素直に感動する大人が、どれほどいるかわかりませんが、わかりやすすぎる、そして今更なテーマは、やはりお子様向けと呼ばざるを得ないでしょう。ところが、映画自体は大人の顔を見て作っているんですよね。このあたりも理解に苦しむところで、子どもにはついていけず、大人にはクサ過ぎる中途半端な映画になっています。まあ大人でも子どもでもないモラトリアム人間(この言葉も使われ始めて久しい)が多い日本にはちょうどいいレベルの映画なのかも知れませんが。

 でも、本当にコメディに徹するなら徹する、ヒューマンにしたいならもっと感動的にしてほしい。彼は、ただただ楽しませる映画を作ったほうが良かったんです。それを何か欲張ったのか、なにもかもが中途半端な映画になってしまいました。

 それにしても『E.T.』の頃からスピルバーグはちっとも変わってない。これはもちろん悪い意味で、です。一貫して同じテーマを扱うことは、全然構わないんだけど、映画も時代の産物です。昔と同じ手法ではファンはしらけます。特に僕たちの世代のように、彼の映画と一緒に青春を過ごしてきてこうして大人になった者には、いつまでも昔と同じことをされると寂しくなりますし、それが今の10代の子たちに受けているのならともかく、「つまんない」とか言われたら、よけいに悲しい(それは単純に時代遅れ、ということですからね)。

 この映画も、エンターテインメントとして見れば、それなりに面白いんです。さすがにこれだけのスタッフ揃えて、そんなにつまんないモノにはなりません。時間潰しには十分です。でも、そんな志の低い映画じゃこのスタッフはもったいない。だからこそ、上に書いたような不満が出てきてしまうんですよね。もっともっと面白くなったろうから。残念です。

今回の木戸銭…800円