cinema eye

『がんばっていきまっしょい』

鑑賞日00/5/7(ビデオ)
 田中麗奈主演の青春ストーリー。僕はこの手の映画に一番弱いので、なかなか冷静に評価することが難しいのですが、拾いモノ的なかなりの優良物件だと思います。

 1976年春、松山の進学校(伊予東となっていますが、モデルは愛媛随一の伝統校・松山東高校です)に入学した田中麗奈が、女子ボート部を自ら作り、ボート一筋の高校生活を描くリリカルで爽やかな青春ストーリーです。

 雰囲気としては大林宣彦監督の『ふたり』や『青春デンデケデケデケ』(そう言えばこの作品も四国が舞台でした)、中原俊監督『櫻の園』、それに松岡錠司監督の『バタアシ金魚』といった作品の系譜にある映画です。磯村一路監督は、多分これまでの日本の高校生を主人公にした上記のような作品をよく研究しているのではないかと思いました。その上で、これらの作品よりもテーマをより絞り込んできました。

 田中麗奈がサントリーの「なっちゃん」のCMの雰囲気そのままに好演していて、彼女の才能を感じさせますが、同じボート部の仲間を演じている子たちも、かなり良い味を出しています。このあたりは監督の演出が上手いのでしょう。伝統的な日本の古い城下町と瀬戸内の穏やかな海を舞台に、叙情的に手堅く描く手法も、大林作品の影を感じます。また、ストーリーの運び方のうまさは周防正行の影響でしょうか。

 個人的には1976年という時代設定に参りました。ちょうど主人公たちは僕と同い年なのです。僕も彼女たちと同じように、県内で一番古い伝統校に通っていました。高校2年の時に創立100周年を迎えたのも同じなら、もちろん共通一次試験の一期生なのも同じです。映画の中に出てくる社会風俗や、学校の雰囲気も、自分たちの高校時代をまるで再現したかのように感じました。

 そして、この物語が、この時代でなければリアリティがないのも、僕にはよくわかります。昭和30年代でもダメだし平成の高校生でもダメ。熱さと素直さと冷静さのバランスの良さが、ちょうどこの頃なのです。僕と同世代の人たちには、ぜひ見て欲しい作品です。

今回の木戸銭…1500円