cinema eye

『青春デンデケデケデケ』

鑑賞日92/11/12(劇場)
 大林宣彦監督の最新作は、四国香川県は観音寺を舞台にした青春音楽映画です。「デンデケデケデケ」はもちろんあのベンチャーズのエレキギターの音。 1965年に高校に入学しロックに目覚めた高校生の3年間の青春をビビッドにつづった佳作です。

 映画はいきなり「パイプライン」で始まります。この曲をラジオで聞いてショックを受けた主人公が、高校に入り仲間を集め、楽器を購入し練習を積み文化祭で演奏し、大学受験に旅立つまでを描いていきます。

 そこには特に言うほどのエピソードもなく、大きな障害も悩みもありません。そういう意味では全然ドラマではないのですが、それゆえにこの映画にはドラマを超えた実感があります。そう、大林監督は、この映画はドラマではなくドキュメンタリーを撮ろうとしたのではないかと思うのです。

 そう考えれば、映像のほとんどが16ミリの手持ちカメラで、極めてザラザラした感じだったのも、出演する役者がノーメークで、台詞も聞き取りにくい ほど早口だったりこもっていたりするのもうなづけます(聞き取りにくいのですが、何を言っているのかは推察できます。それでいいのでしょう)。

 1965年に高校入学というと、僕とは約10年くらいの開きがあります。しかし、そういう時代の違いを超えて、この映画の男の子たちは、自分の高校時代を思い出させてくれるリアリティがあります。青春というものがいちばん輝いていたのは、やっぱりこの時期だったかな、って思えるんですよね。

 個人的に共感したところを言うと、この映画では特定のヒロインが出てこないんですよね。つまり青春映画の割りには恋愛の占める割合が低いんですよ。それよりもロックとその仲間の方にウェートが置かれている。これが僕にも凄く共感できるところでして、僕も高校時代は女の子に興味がなかった訳ではむろんないのですが、現実には男友達ばかり群れて遊んでいました。その方が楽しいし、当時は自然だったんです。青春だからと言ってみんなが女の子の尻ばかり追い回しているんじゃないよ、ってことを、よーくわかっているところが いいんですね。このへんもドキュメンタリーだって思った原因です。

 役者がまたいいんですよ。高校生役の子たちには有名な子は一人もいなくて、それが逆に新鮮でドキュメンタリーぽく感じさせます。で、わき役陣の大人は逆に凄くしっかりした演技のできる役者が揃っていて、ベンガルや根岸季衣、岸辺一徳らがいい味だして子どもたちをフォローしています。

 映画の前半は大林監督特有の細かなカット割りや、オプチカル処理、テリー・ギリアムのような幻想シーンなどがふんだんにでてきますが、後半に入るとだんだんにしっとりと落ち着いた映画に変わっていきます。このあたりも主人公の精神的成長ぶりとだぶらせながらの効果のつけ方なんだろうと思われます。だからこの映画を途中から映画館に入って見るようなことをすると面白くない退屈な映画に思えることでしょう。いや、会社の後輩が、そうして退屈したらしいんですよ。だから、皆さんもそういうことだけはしないようにね。

 尾道三部作同様に、この映画も観音寺をほとんど離れずにロケで撮っています。これがまたいいんですよね。大林ファンは尾道まで行ったら、これからは 観音寺まで足を延ばさなければならないでしょうね。そうそう、うちの会社の女性で、ダンナが大林映画のスタッフという人がいるんですが、なんでも今は九州でロケ地を探してフラフラしているそうです。今度は九州のとある街が舞台になった作品が見られるかも知れませんね。

 それと音楽ですが、一応音楽監督は『ふたり』に続いて久石譲ですが、それよりもやはり全編に流れるオールディーズの数々がゴキゲンです。映画を見終わった後もずっと「パイプライン」のメロディが頭にこびりついて離れません。

 そんな訳で、男性なら過ぎ去りし日々を思い出し、女性なら男の子の一面を 知ることができる青春音楽映画の傑作です。今年の日本映画ナンバー1かなぁ。

今回の木戸銭…1400円