cinema eye

『バタアシ金魚』

鑑賞日94/2/13(ビデオ)
 90年の日本映画の傑作と言われる作品ですが、ようやくビデオで見ることができました。原作がヒットしたコミックなので、設定はご存じの方もいるかもしれません。水泳部のソノコ(高岡早紀)に一目惚れしたカオル(筒井道隆)は、カナヅチのくせに水泳部に入部。恋愛ターミネーターと化して強引にソノコにアタック、君のためにオリンピックに出る、などとマジに宣言したり、ライバルとなる永井(東幹久)と対立したり、他校の水泳部員と喧嘩したりする、という青春ドラマです。

 最初はここまで強引で思いこみが強い男の子に付きまとわれたら、さぞかしソノコは迷惑だろうな、と感じさせながら、映画が進行するにつれカオルの一生懸命さを応援したくなる、そんな映画の力、監督の力を感じさせる作品です。

 カオルの魅力は一言で言って「爽快さ」。これにつきます。最近は大人はもちろん、高校生であっても妙に計算高くなってしまって、カオルのように損得を考えずに自分に正直に生きる人間は、まさに爽快そのものです。なにも考えていないような、でも気持ちだけは純粋で真っ直ぐな高校生を、筒井道隆が気持ちよく演じてくれます。最近ドラマ『あすなろ白書』の掛居クンなどをやっていた彼ですがこのカオルの方が似合っているような気がします。

 さて、それにも増して魅力的なヒロインがソノコの高岡早紀。美人ではないけど綺麗です。清楚でありながら、お人形ではないリアルさと透明感を感じさせ、過去日本映画に幾多あったセーラー服のヒロインの中でも出色だとはっきり言えます。特にラストのセーラー服でプールに飛び込むシーンは、機関銃をぶっ放す薬師丸ひろ子よりも、自転車のペダルをこぐ富田靖子よりも上だと僕は断言しましょう。

 さて、この映画のもう一つの魅力は日本の夏の景色、というより日本の夏の空気感にあります。あえて都会ではなく、いまどきどこにあるのかというような地方の街を舞台にして、流れる川、空、森、野原、畑、太陽、雨、道、それら全てが、僕たちがよく知っている夏の、特に夏休みの空気を感じさせてくれます。見る者を懐かしい高校時代の夏休みへと誘う役割を果たしているのです。

 そう、この映画は日本の普通の高校生の夏を爽やかに、ちょっとノスタルジック に描いた物語です。勉強の重圧を感じながらも、親や先生にに反抗し、友達とバカを言い合い、部活に励み、ライバルと競い、そして恋に胸をときめかせる。そんな誰もが共有してきたようなひと夏を、リアルに、でも爽やかに描いた佳作、それが『バタアシ金魚』です。高校時代がちょっと遠くなってきた人に見てもらいたいと思います。

 こういう日本映画、特に青春映画の佳作を見るたびに、やっぱり日本映画はいいな、と感じます。それはなにも頭で考えなくても身体が覚えているようなある種の感覚を呼び覚まさせてくれるからです。これに比べれば、所詮洋画は絵空事の世界だと思います。もちろん絵空事に遊ぶのも映画を見る楽しみではあるのですが、僕たちが知っている感覚を再現される感動は、日本映画でしか味わうことはできません。「そうなんだよなぁ、わかるなぁ」という感覚を楽しみたくて、また僕は日本映画を見てしまうのです。

今回の木戸銭…1400円