cinema eye

『あした』

鑑賞日97/2/27(ビデオ)
 1995年に公開された大林宣彦監督の新・尾道3部作の第2弾。第1弾の『ふたり』から随分間が空いての待ちに待った新作だったはずですが、興行的にはイマイチだった作品です。

 新尾道3部作は幽霊シリーズ。『ふたり』に続いての赤川次郎原作と言うのも同じなら、突然死んだ愛する人の幽霊との交流ということも同じです。

 突然の海難事故で最愛の人を失った人たちに、ある日突然メッセージが届く。「今夜12時、呼子浜で待つ」。その言葉を伝えられたた者、そしてそれを追う者たちが人気のない浜へと集まってくる。そして12時。沈んだはずの船が浮上した。。。

 ということで、幽霊たちとの不思議な一夜が始まります。これまでの尾道シリーズのように主人公の美少女1人の物語ではなく、今回は登場するそれぞれの人物がみんな主人公である集団劇。最愛の人を失い生きる希望を失った人々と、それを励ます死者たち。「生きる」ということはどんなことか、どうして人は生きていかなければならないのか。大林監督のストレートなメッセージが響きます。

 いつもの大林監督的なわざとらしい破綻が少なく、この作品はかなり端正な印象を受けます。集団劇なために、あまりやり過ぎるとわかりづらくなるので避けたのでしょうか。ちょっと作品がこじんまりとまとまってしまった感じなのが残念です。で、その努力の割には、やはりバラバラな感じだし。

 高橋かおりをはじめ若いフレッシュな役者たちは、みな演技は下手ですがそれがかえって新鮮に映ります。そして脇を固めるベテラン俳優陣。中でも植木等と津島恵子がいいですね。役の上でも組員たちの「親」ですが、出演者の中でもやはりこの2人が親としてみんなを支えているというイメージでした。

 いつもの大林組の役者がちょこちょこと顔だして、そういう意味では楽しめたのですが、残念だったのは今回は尾道が主役ではなかったこと。あの町自体が重要な役者なだけに、あまり生かされていないのが残念でした。ラストシーンで宝生舞が自転車で尾道の町に向かって下りていくところは良かったのですが。

 と言うことで、面白かったのですが、全体にちょっと物足りない印象を受けました。

今回の木戸銭…1100円