cinema eye

『12人の優しい日本人』

鑑賞日92/6/26(ビデオ)
 公開時に見損なった期待作。ビデオになったのを幸い、早速借りてきました。

 うーん、期待通り、いやそれ以上の面白さでした。かなりシニカルな内容を期待していたんですよね。議論下手な日本人が陪審員をしたら、絶対本家の『12人の怒れる〜』のような高度な議論にならず、とんでもない醜態を見せる、みたいなものを。そういう意味では逆にパロディは本家を超えるようなことはない、と思ってもいました。どこまで上手に本歌取りができるかみたいな期待だったのですが、それは見事に裏切られました。

 本家を超えたかどうかはともかく、少なくともこの作品はパロディという枠をこえて本当に楽しめる面白い映画になっています。とにかく計算され尽くしたどんでん返しの連続で最初はしっかりした人に見えたのに、とか、危ない感じの人が最後には、みたいな人物の印象の逆転、有罪・無罪の議論の展開、個々の人物をしっかり描きこみながら、二転三転の内容は極めてユーモラスかつスリリング。しかも、最後はちょっと観客をあたたかい気持ちにさせてくれるようなハッピー・エンド。映画がまるで急流を下る筏のようで、そこを監督がうまい竿さばきで見事に下流まで観客を連れていってくれたような感じです。

 中原監督といえば『櫻の園』ですが、これも良く似たタイプの作品で、ほとんど密室の中でほぼリアルタイムに展開するストーリー。一分の隙もない構成。ただ、『櫻の園』に比べると、こちらのほうが題材のせいか一般向けという感は強いですが。

 欠点をあげつらえばないでもないですが、そんなことは気にならないほど、よくできた作品です。少し有名な役者は林美智子くらい、予算もほんのわずかでしょうが、それでもこんな面白い作品ができるのだから、まだ邦画も捨てたものではありません。

今回の木戸銭…1500円