ブレント・スパイナー氏インタビュー

翻訳家の堺三保氏のご好意により、データ少佐役・ブレント・スパイナー氏のインタビューを掲載できることになりました。堺氏に感謝いたします。

1995年11月15日、赤坂、キャピトル東急にて
インタビュアー:堺三保

Q:日本に来られてからインタビュー攻めで、どこにも行かれていないご様子でなんなのですが、とりあえず、日本の印象をお聞かせ願えますか?

A:えーっと、ホテルの部屋はラブリーだよ。(笑)冗談さ。東京は大好きだよ。もっと滞在したいくらいさ。また来たいね。とてもファンタスティックな街だもの。今年は世界中を飛び回ってたんだ。この映画の記者会見やインタビューなんかで、ヨーロッパ中から南アフリカに南アメリカまでね。どこへ行っても聞かれるのは『この街のご感想は?』さ。これが一番困った質問なんだ。だってそうだろ。なんて言えばいいんだい?『はっきり言って、そんなの知ったこっちゃないね』っていうのかい?ボクの言いたいことわかるだろ。(笑)でも、ほんとに東京のことは大好きだけどね。

Q:まあ、型どおりの質問ということで、許して下さい。(笑)

A:いやいや、気にしちゃいないよ。(笑)

Q:では早速『ジェネレーションズ』についての質問に移ります。今回、映画ということで、今までTVでTNGを撮っていたのと、違うところはありましたか?

A:たいしてないね。時間は充分にあったよ。なんせ映画は予算がでかいからね。TVだと急いで撮ってしまわないといけない。だからベストのショットを撮ってる暇はないんだ。TVじゃリハーサルでもゆっくり芝居を考えてる暇もないしね。とにかく撮ってしまわないといけないから、1回目のテイクで「よし、パーフェクト」ってなものさ。(笑)

Q:本番を何度も繰り返したりしないと?

A:そうだね。TVじゃ本番を2回撮るのが普通だ。1つは、もう1つに何か問題があったときのための予備でね。これが映画だと、20回でも30回でも本番を撮るからね。

Q:さて、今回の映画でとうとうデータは感情を得たわけですが、かつてプロデューサーのロッデンベリー氏は「データはピノキオだ」と言ってましたね。だとすると、データが感情を持つというのは、「ピノキオ」のラストでピノキオが人間になるのと同じ事で、物語としてもキャラクターとしてもデータは完成されてしまったように思えます。そこでスパイナーさんにお聞きしたいのは、今後のシリーズで、どういう風にデータを演じていかれるのか、ということなのですが。

A:うーん、まだまだデータにはいろんな可能性があると思うね。まず、あの感情チップがこれからもきちんと機能し続けるとは限らないってことがある。それにデータがチップをつけたままにしているかどうかわからないし、スイッチを切ったり入れたりするようになるかもしれないだろ。データは恋愛、本物の恋愛はしたことがないしね。肉欲ってものは感情とはまた違うものだろ。大体、ボクが思うに、データが感じているのは本物の感情じゃないんだ。あれは人工の感情だよ、感情チップが作りだした。データはやはり血を流す生きている人間じゃないのさ。彼は、特定の感情にアクセスできるコンピュータ・チップを接続した機械なんだ。

Q:すると、データと人間の間にはまだまだ大きな差があると?

A:そうとも。データの頭を開けたらいろんな回路が走ってるけど、血も肉も見えないだろ。常にその差がデータを人間と違うものにしているのさ。

Q:では今回、感情を持ったがやはり人間ではないデータをどのように演じられたのですか?これまでのデータとは、どう変化をつけられましたか?

A:それは言えないよ。(笑)だって、それを言っちゃうと見る人の楽しみを削いじゃうだろ。観客は知りたがらないと思うね。彼らは映画を楽しみたいだけなんだからさ。手品師のトリックってあるだろ。魔法ってヤツ。あれはタネをあかしてしまうと、とたんにつまらなくなっちゃう。単純なことさ。ボクに言わせれば演技もそれと同じなんだ。どういう風にキャラクターを作り上げているのか話してしまえば、とたんに魔法が解けてしまうんだ。ボクはとても長い時間をかけてこのキャラクターを作り上げてきたけれど、その方法を話してしまったら、実に簡単にそれが崩れてしまうのさ。わかるかい?

Q:では質問の仕方を変えます。これからは、今まで以上に人間との違いが微妙になったキャラクターとして、データを演じることになると思うんですが、それについてのご自身の興味などについてお聞かせ願えますか?

A:別に新しいデータを演じる必要があるとは思ってないね。データはデータなのさ。ただ、今までよりもっと知識が増えただけのことだ。データはTVシリーズを通して、1年目から7年目まで変化してきただろ。ぼく自身は意識的にキャラクターを変化させようとは思ってなかったね。変化は脚本家たちが与えてくれた、データを演じる上での道具だと思ってるんだよ。うーん、例えば、夢を見るプログラムをデータは自分に組み込んだよね。でも、だからといってデータが変わったわけじゃないだろ。(あの夢はあくまでプログラムであって)データ自身はやっぱり夢を見ることができるわけじゃないんだからさ。それと同じで、今回の映画のデータも今までとまったく同じキャラクターであって、ただ感情表現というものに不慣れなせいで、あんな派手な行動をとっただけなんだ。人間は感情を持ってるからといって、常にそれをさらけ出したりしないだろ。ピカード艦長なんかは特に冷静な人物だよね。彼はいつも感情を見せないようにしてる。この映画の中では、データは感情チップを装着したものの、何かがうまくいかなくて、変なふるまいをしてしまうけれど、あんなデータはもう二度と見ることはないと思うよ。映画のそこここにはいくつかヒントがあるけれど、映画のラストのデータは今までの彼と同じキャラクターなんだ。たとえ涙が頬を伝おうとも、データはやっぱりデータなのさ。

Q:データというキャラクターの基本的な部分は、最初から変わっていないと?

A:いくつか特徴は増えたかもしれないけどね、それでも同じキャラクターなんだ。

Q:彼は成長しないということなのでしょうか?

A:進化はしてると思うよ。キャラクターが深くなっているという意味でね。まったく同じままということはないさ。経験が増しているからね。ずっと人間のそばにいたから、人間のエキセントリックさや特異な性格をシミュレートできるようになってきてる。そういうものを取り入れるように自分を再プログラミングし続けてきたんだからね。そうやって、キャラクターは進化してるのさ。「大人」になってきたって言ってもいいね。

Q:それでも、彼はまだアンドロイドだと?

A:そうとも。彼はそれでもアンドロイドなんだ。ジーン・ロッデンベリーと初めて会って、キャラクターについて話したとき、彼はボクにこう言ったんだ。『シリーズが進むごとに、常にデータはどんどんどんどん人間に近づいていくことを私は望んでいるんだ。そしてついにはとてつもなく人間に近い存在になる。でもやはり人間じゃない存在にね』とね。

Q:では、この辺で質問を変えて、これもよく聞かれることだとは思うのですが、これまで8年間データを演じておられて、アメリカではあなたとデータを同一視する人も多いと思うのですが、そのことをどう感じておられますか?昔、レナード・ニモイ氏は「私はスポックではない」という本まで書きましたよね。

A:いや、気にしちゃいないよ。人がボクをどう言おうとそれは彼らの勝手だからね。ボクはほんとに気にしてないよ。それにボクをデータだと思いたい人たちがいるってのはいいことさ。そいつは人気者であることの要素の一つだからね。人がボクをデータだと思うっていうのは、ボクがショーン・コネリーと言えばジェームズ・ボンドだっていつも思っちゃうのと同じことさ。『アンタッチャブル』に出て他の登場人物の間に混じって、1920年代のシカゴを舞台に活躍してるのを見たって、ついボクは『あ、ジェームズ・ボンドだ!』って思っちゃうんだ。ボクのコネリー観も、人々のボクに対する見方もすごく限定されたものでしかないけど、それは個人の考えだからね。気になんかならないよ。このあいだある女性に会ったんだ。ぜんぜん映画とかには詳しくない人でね。ボクが『スター・トレックのTVが終了して、これからはときどき映画でやるだけなんだ』って言ったら『よかったじゃない。これでまた(ちゃんとした)役者に戻れるわね』って答えたんだ。TVでスター・トレックを見たことがない人ってけっこう珍しいからおもしろかったんだけど、以前に彼女が『ブレントはどんな役をやってるの』って訊くんで、誰かが『感情を持たないアンドロイドの役なんだよ』って言ったらしいんだな。それで、彼女、ボクの役が眉一つ動かさない無表情な、どんなものにも興味を示さないロボットだと思ってたみたいなんだ。ボクは別に彼女の誤解を解こうとは思わないよ。だって、それは彼女の考えだからね。好きなように考える権利があるんだからさ。だろ。(笑)

Q:どんどん違う役柄の仕事を積極的にやることを考えておられるとは思うのですが?パトリック・スチュアート氏は「クリスマス・キャロル」を舞台でやられたり、映画「Jeffrey」でゲイの役に挑戦されたりしていますけれど。

A:ボクに選択権があるとは思えないね。申し出があった役の中から、おもしろそうなものを選ぶだけだからね。でも、違う役柄ってことに関しては、何の問題もないと思うよ。だって、データみたいな役は他にないからね。パトリックについて言うと、確かに彼の「クリスマス・キャロル」はすごくよかったんだけど、ボクはあの芝居を見たとたん『あ、ピカード艦長がいる』って思っちゃったんだ。(笑) 「Jeffrey」でもパトリックはいろんなことをやってみせてくれるけど、ボクにとっては『ピカード艦長がカツラかぶってる』って感じでさ。(爆笑)

(以上)