表紙
★幻影魔術綺談 Vol.9★
好評領布中!


嘘つき。でも、信じて。



「敦子は、仕事、忙しいの? ずいぶん疲れが溜まってるんでしょう?」
 雪乃は首を振り、無理に話題の方向を曲げた。
 敦子は雪乃の意図に気づいた様子だったけれど、それについては何も言わなかった。彼女は緩く首を振り、声を潜めるようにして話した。
「仕事はちょろいものよ。疲れも、ストレスも、ない」
 彼女は自宅のすぐ近く、市の図書館の職員をやっていた。
 彼女の返事に雪乃は眉を寄せる。
「でも……?」
「そう。不思議なのよ。先生はね、生活のリズムが悪い、働き過ぎだ、食事も睡眠も不規則だろう……そんなふうに診断したのよ。それでこれ」
 彼女は片方の腕を上げ、点滴のチューブを雪乃に示した。
「でもね、違うのよ。私が倒れたのは仕事のせいでもなければ、生活習慣のせいでもない。そうじゃなくて」
 彼女は少し言いよどんだ。
 その表情に非日常的なにおいをかぎとって、雪乃は小さく息を飲む。そして話の続きを促した。
「何? 言って、敦子」
「灯台。中学の帰り道の。覚えてる?」
 答える敦子の囁き声は、何かにおびえるように低く抑えられていた。
小早川赤彦 第一七話

「あら、不思議なことをおっしゃるのね。警察の人間かどうかなんて、些細な問題だと思うわ。
 私たち魔法関連者を組織しているのは人間じゃない、魔法、という得体の知れない不思議な力が私たちを結びつけているのよ。ね、そう考えれば何の不思議もない。だって、魔法それ自体が不思議なんですもの」
「は、はあ……」
 南の唇はなめらかに動いて、椎太の思考を翻弄する。彼女が作り上げてきた「ネットワーク」という存在こそが彼女の魔法で、その不思議さに椎太はあたかも哀れな子羊のように迷ってしまっているのではないだろうか。そんな危惧さえ抱かせる。
 それくらい、つまり彼女は美人なのだ。
「おい高杉、なにぼーっとしてる」
「あ、はい、木原さん」
 椎太はさっと姿勢を正すと、その後に右手で頬を触った。赤くなってはいないだろうかと、心配だったのだ。宝条南の赤さが、自分の頬にも移ってしまったような、そんな気がしたのだ。
「あと、これは単純な疑問なんですが」
 頬を掻きながら椎太が言う。
「魔法のことは、極秘事項なんですよね? そんな極秘事項をインターネット上にこんなふうに公開しちゃっていいんですか?」
さぼさぬけ 第一八話



東京都矢敷市を舞台に繰り広げられるヒーローたちの活劇、魔法使いの苦悩、出逢い、そしてそれを引き起こす不思議な魔法の力。
いったい誰が何を知るのか、誰も、知らない。