『輪』−−廻る、阻む、回る、守る。
我こそは選ばれし者。
絶対の確信を持ってそう宣言できる人物が、いったいこの世界中に何人いるのだろう。
その疑問はこれまでにも何度か水島水鳥の脳裏に浮かんだことのあるものだった。頭の中を軽やかに、無責任に通り過ぎていくとりとめのない思考。
自分は他の人間とは違う特別な存在なのだと、自分の中の一部分が主張している。その一方で、自分がなんでもないちっぽけな存在でしかないことも、揺るぎない事実として実感している。
不思議な自己意識の合わせ鏡。
特殊な知識、技能、肉体的な優越、富……それらの何があったとしても、自分が間違いなく選ばれし存在であるということの保証にはならないだろう。たとえばまるで魔法のような力を持っていても、この疑問から抜け出ることは出来ないに違いない。
そしてそれが魔法の力そのものであったとしても同じことだ。
小早川赤彦 第一一話
「字を当てるなら『ワ』は『リング』だ。ワは宝条南を嫌っている。おそらくは君のことも好いてはいないだろうね。だから、宝条南は君にワのことを教えなかったのさ。
そうそう……多分今、君は宝条南に真実を尋ねたい気持ちで一杯だよね。でも、聞いたって無駄だよ。宝条南は君に本当のことを教えてくれはしないさ。
宝条南は君が思ってるよりもずっと、狡猾で、打算的なんだよ」
「嘘…!」
七は思わず口走った。そしてはっと気づいて口元を押さえる。回線の向こうの、嘲笑う口元が目に浮かぶようだった。それは、一番言ってはいけない言葉だったのに。
「嘘じゃないさ。ボクは宝条南と違って正直だからね。疑うんなら確かめてみればいいじゃない? もっとも、宝条南が帰ってくるまでまだ日にちがあるけどね。
残念?」
思わず口走った言葉が、自分の負けを認めているようで悔しかった。
さぼさぬけ 第一二話
東京都矢敷市を舞台に繰り広げられるヒーローたちの活劇、魔法使いの苦悩、出逢い、そしてそれを引き起こす不思議な魔法の力。
新たなる組織の存在が、今、浮かび上がる。